編集長(8)「やはり歴史地理教育はむずかしい?!」

By | 2020年2月3日

編集長日記(8)「やはり歴史地理教育はむずかしい?!」

〇はじめに

 12月号で、1000兆円という破滅的といっておかしくない日本の財政赤字の問題に切り込むべく、財政問題をテーマに特集を組みました。「100兆超えの向こうに」という特集タイトルには、ついに史上初めて100兆円を超えた日本の国家予算(正確には現状は予算案ですが・・・)に警鐘を鳴らす意味を込めました。丁度、予算編成の時期の特集号となり、タイムリーな企画であったと思います。

〇12月号の特集と評判

 ところで、実際に読んで頂いたからの反応は、まちまちでした。巻頭の神野直彦さんの日本の財政のあり方を論じて頂いた論文は、現在の財政の破綻状況の経緯を的確に分析した内容です。しかしながら、かなり難しいとか、抽象論が多いとの声を頂きました。一方、大内裕和さんの奨学金制度に関する論稿は、今の教育現場で深刻さを増している経済問題に切り込んだ、興味深い内容と言われています。他に熊倉正修さんのアベノミックス分析も安倍政権の経済政策に鋭く切り込んで、その問題性をえぐり出しています。

〇やさしく書いてほしい?

 経済の特集は、年に最低でも1回は取り上げていますが、どうしても内容が難しかったというご指摘を受けることがままあります。経済というテーマの宿命も感じますが、ではやさしく書いてほしいと執筆者の方にお願いすべきかといいうと、私にはそうは思えません。

読者の多くを占める歴教協会員は、小中高の教員が大半です。特に小学校の教員は、歴史や地理、公民といった社会科だけを教える社会科の専科ではないことは十分承知しているつもりです。私自身、高校の教員ですが、歴史を教えることが多く、経済などは苦手な分野です。それでも我慢して読んでいると、自分の知らない世界なので、却って興味の湧くことが多々あります。そんな時、改めて勉強するって大変だけど、面白い、ためになると思います。

 歴教協の設立趣意書に曰く、「歴史教育は、げんみつに歴史学に立脚し、正しい教育理論にのみ依拠すべきものであって、学問的教育的真理以外の何ものからも独立していなければならない」とあります。学問の成果に学んでこそ、明日の授業ができると考えます。ですので、執筆者の方々には、いつも執筆依頼状で、なるべく具体例を踏まえての論述を心掛けて頂くように、お願いしています。それが明日の授業のヒントや教材になると考えていますし、一般の市民の方にとっても、歴史や社会を身近に感じて理解を助けるものと思っています。決して、やさしく書いてほしいとお願いしたことはありません。それで内容がレベルダウンすることは歴史地理教育の命取りではないかと思っています。(若杉 温)