編集長日記(10)「3月号の『僕は17歳、今も東京に避難しています』は必読です!!」

By | 2020年3月23日

編集長日記(10)

「3月号の『僕は17歳、今も東京に避難しています』は必読です!!」

〇3月号は9年目の東日本大震災・福島第一原発事故、昨今の風水害を特集しました

 最近のコロナウイルスの問題などを見ても、現在の日本や世界が置かれている状況は、災害多発そのもので、私たちを取り巻く環境がただならぬものがあるのは明らかです。東日本大震災から9年目を迎え、復興五輪などという言葉がまったく絵空事に思える問題が多発しています。未だ避難者の方々が5万人近く存在し、しかもその大半の約4万人が原発事故によるものであるという事実を重く受け止めて、今後の私たちが進むべき社会の方向を模索していく必要を感じます。

 そのような問題意識で、3月号の特集は「災害列島日本の現実に立ち向かう」という題名で、その災害多発状況に日本列島について考えました。表紙の写真は長野県の千曲市土口の水没した水田に流れ混んだ稲わらの写真です。奥に家屋が写っていますが、水害の恐怖が際立って伝わってくる一枚です。提供者はご自身も今回の水害で被災された飯島春光さんです。飯島さんは今年の歴教協の愛知・東海大会の地域実践報告で、長野県の戦時中の満洲移民の問題について講演される方です。

 

〇まずは原発事故からの避難を体験した高校生の切実な訴えにご注目ください   

 今回の特集は5本の論稿で構成しました。内訳は内容から論文3本、地域報告の手記1本、授業実践報告1本です。中でも注目頂きたいのは、特集の4番目に掲載した高校生の鴨下全生さんの「僕一七歳、今も東京に避難しています」という4pの手記です。鴨下さんは8歳の時にふるさと福島で原発事故に遭遇し、家族で東京に避難し、高校生になった今でも、東京での避難生活を余儀なくされています。その間に住居を転々として、転校先でもいじめに会い、苦しんだ生活が綴られています。読むほどに高校生の豊かな感性に脱帽です。

 鴨下さんは、この原発問題の苦難を昨年11月に来日したフランシスコ教皇に訴える手紙を書いてバチカンに招かれ、教皇に謁見して原発事故の被害や日本政府と東電の責任について訴えました。そして教皇来日の際には、さらに福島の人々の苦難について具体的な状況を伝えました。、手記ではそのメッセージの全文も掲載しています。しかし、この発信から彼は大きな非難を浴びることとなってしまいました。それは、「・・・それでも避難できた僕らは、まだ幸せなのだと思います。・・・」という言い方から地元福島に残った人々が不幸であると述べたとの思わぬ非難でした。被災者の分断がこれほど深刻なのかと思わされる事実です。授業でこのまま全文を紹介して、原発問題を広く現代社会のあり方全体を問う形で、授業化していってはどうでしょうか。以下、特集の他の論稿についてもご紹介します。

 

〇巻頭論文は岩淵孝さんの「社会の力で命を守る防災・防災教育を」です。

 岩淵孝さんは歴教協で毎年1月中旬に主催している中間研究集会でも災害問題について講演してくださった方で、ご専門は地理学です。東日本大震災後に話題になった「津波でんでんこ」という言葉への批判が持論です。津波でんでんこは災害にあったら、各自の判断で逃げることが大切で、みんな一緒にという考えでは、被害が拡大するという教えとされています。岩淵さんはこれは新自由主義で広まった自己責任論に通じるものがあるとして、行政などの災害対応への責任放棄を生むと主張されています。今回の巻頭論文でもこの問題を取り上げています。もう1つ今回の論稿で強く主張されているのは、西日本豪雨の実態を説明する中で、今回の災害はそれまでの行政の対応から考えて自然災害ではなく、行政の怠慢による人災であると断定しています。その根拠については岩淵論文に譲るとして、その人災ではないかという視点は災害問題や温暖化などの環境問題を考える大切な視点であることは確認しておきたいと思います。

 また、西日本豪雨自体の詳細は、特集の2番目に掲載した磯部作さんの「豪雨災害地域に対する行政等の対策の状況と問題」に詳しく解説されています。災害対応の問題点を多角的に提示されているところが光る論稿です。様々な問題点を明確に理解できる内容です。

 

〇福島第一原発事故はまったく収束の方向が見えません!!

 福島第一原発事故の現在については、特集の3番目の論稿として伊東達也さんの「福島原発事故発生から九年、福島から」を掲載しました。今年は3月11日前後に2011年から9年目ということで、多くのテレビ番組でこの事故の問題が取り上げられていました。それらを見ながら、伊東さんの論稿を読むと、問題の深刻さ、特に未だ解決の方向が見えない多くの問題が実感をもって見えてきます。避難解除宣言が出されても帰らない住民の多さ、福島県民の生活を支える生業の回復度の低さ、政府や東電の被災者支援の打ち切り、事故の法的責任が問われず、損害賠償が未だ確定しない状況、事故収束の様々な課題(使用済み燃料や溶けた核燃料であるデブリの取り出し、汚染水の増加とその処理、施設そのものの劣化など)を具体的な問題点を指摘しています。

 そして何より「原発ゼロ」、「核燃サイクルからの撤退」という今後の社会全体の大きな展望を論じています。「原発事故被害いわき市民訴訟原告団長」という立場の伊東さんの運動を通じての切実な訴えが論稿全体から読み取れます。4月からの新年度で、中学の公民や高校の現代社会の授業開きに原発問題を取り上げるとしたら、絶好の教材となる思います。

 

〇授業実践報告は「なぜ和歌山に原発がないのか」です

 最後に原発関連の授業報告を掲載しました。和歌山県歴教協の横出加津彦さんの高校での実践です。地元和歌山で実際にあった原発誘致反対運動を取り上げて、原発誘致の是非を生徒と考える横出さんならではの地域に根ざした意欲的な実践です。これも4月からの授業のために是非ご一読頂きたく思います。(若杉 温)