編集長日記(11)「『平成の30年・ポスト冷戦を問う』は最現代史の1冊です!!」

By | 2020年4月24日

編集長日記(11)

「3月増刊号『「平成」の30年・ポスト冷戦を問う』は最現代史の一冊です!!」

〇新型コロナウイルス蔓延の今に思う!!

新型コロナ流行を受けて、3月初めに小中高校の一斉休業が始まった頃、3月増刊号が校了になりました。「平成」から「令和」の代替わりを受けて市中に出回る所謂「平成本」に対抗して、最現代史を歴教協の立場から振り返った1冊です。

昨今の政府の場当たり的な感染症対策を、テレビや新聞、あるいはネットなどの報道で見るにつけ、現代の日本の社会が緊急事態に極めて脆弱であることを実感していますが、それがこの「失われた30年」といわれる「平成」の時期に生み出されていったことを、この増刊号が教えてくれます。

例えば、先日の報道で、この30年で地域の保健所が全国で半減し、1989年の848カ所から2018年の469カ所になってしまったことを知りました。保健所といえば、コロナ感染を確認するPCR検査の受付窓口となる感染対応の最前線です。ここが経済効率の名の下に急激に減らされていたのです。まさに新自由主義による資本主義の暴走を如実に示す事実です。

今回の増刊号の論稿では、巻頭のフリージャーナリストの斎藤貴男さんへのインタビュー、経済学の金子勝さんの「バブル崩壊以降の日本経済の三〇年」、国際関係史の木畑洋一さんの「冷戦後の国際関係」、日本現代史の菊池信輝さんの「五五年体制の崩壊から連立政権の時代へ」などをお読み頂くと、格差が常態化して貧困が蔓延している日本社会の混迷が、どのような世界情勢に翻弄され、その中でどのように日本政治が迷走して、経済政策などの失策が積み重なって、生まれてきたかがよく理解できると思います。

そうした「失われた30年」の上に襲ってきた新型コロナには、まったく適切な対応が出来ない政治の貧困は、残念ながら当たり前としか思えない悲しい現実があります。ここからどう日本を再生させていくのか、すべての人々に問われている課題でしょう。そして、上記の研究者などの歴史や社会分析とは別に、地域からの市民運動や学校現場の報告をお読み頂くと、極めて困難な状況の中、子ども食堂を運営したり、原発再稼働にストップを掛けたり、外国人の子どもたちの生活支援などに邁進する人々の真摯な努力がわかり、希望の光が見えてきます。是非とも、それらの地域などの報告もお読みください。

〇「平成」を敢えて書名に掲げました!!

ところで、3月増刊号年号は、発刊前から今後の刊行予定で特集の仮題名をご覧になった会員や、編集委員や常任委員の間からも、歴教協として天皇制そのものである元号を認めるのかという趣旨の批判が数多くありました。しかし、一方で元号が問題だからこそ、今回の特集には意味があるという意見も多数頂きました。この号は、私も直接編集担当として企画案を提案し、執筆者の人選にあたるなどしましたので、こうした反応は想定内のことではありました。というより、こうした対立する反応を敢えて覚悟してでも、「平成」とはどんな時代だったのか、多くの方に関心をもって考えて頂きたいという思いがありました。そのため、「 」づけですが、敢えて元号を表題に掲げました。天皇制における元号の意味については、巻頭論文の歴教協委員長で近現代史家である山田朗さんの「『平成』・『令和』の象徴天皇制と歴史認識を問う」に詳しく述べられていますので、まずは、特集の趣旨を理解頂くために、山田論文から読んで頂くことをお勧めします。

「授業とは、問題提起である」、長年高校現場で「考える日本史の授業」と称して、生徒を主役とした討論授業を追求してきた千葉県歴教協の実践家加藤公明さんがよく支部例会で口にされてきたことです。実は「歴史地理教育」の編集においても、特に特集の企画にあたって、「編集の企画は、問題提起であるべき」と考えています。それは正答主義を乗り越え、どこに問題があるのか、読者と共に考え、読者それぞれがその正解を追究して頂きたいとの思いで特集の企画を立て、編集をしているからです。元号を表題に掲げた本号は特にそうした思いを込めて編集にあたりました。(若杉 温)