編集長日記(14)「11月増刊号は、コロナ感染問題を特集します」

By | 2020年5月26日

編集長日記(14)2020/05/26

「11月増刊号は、コロナ感染問題を特集します」

〇首都圏や北海道でも、緊急事態宣言がようやく解除されました!!

 そろそろ、全国の会員の皆さんに『歴史地理教育』の最新号の6月号がお手元に届いていると思います。今回もコロナ感染のため、発送はボランティアの方の手を借りずに、事務局だけで行いました。緊急事態宣言はようやく解除されましたが、すぐにかつての日常が戻るわけではありません。私の勤務する千葉県の県立高校では、6月は分散登校で、クラスを2つに分けて、午前午後で生徒はどちらかで登校して、教員は同じ授業を2回実施する予定です。一番の不安は、グループ学習などの生徒同士の話し合いや教師の問いかけを“自粛”して、同じ方向に生徒を向かせるようにという“要請”です。この間まで声高に叫ばれていたアクティブラーニングの導入はどこにいったのでしょう。しかも緊急事態の一時的対応と思っていたら、これからはこのような対応が恒常化する“コロナ時代”だそうです。

 緊急事態宣言の発令前後から、4月号、5月号、6月号と『歴史地理教育』は何とか刊行を続けることが出来ました。執筆者の方々はもちろんのこと、直接編集作業に携わられた事務局員、常任委員の編集担当、そして印刷所、外部編集者の方々に深く感謝します。特に、この6月号をもって、約10年に渡って編集の実務を担って頂き、原稿のレイアウトをはじめ、内容の閲読までして頂いた外部編集者の方が交替されました。これまでのご協力に改めて感謝します。『歴史地理教育』は社会科教育、歴史教育などに関する学術誌として、一定の水準を保つべきとして、温かくも厳しいご意見を、編集作業を通じて頂き、緊張感をもって、編集企画を進めることが出来ました。ありがとうございました。

〇4月号は万葉集と記紀、5月号は憲法、6月号は沖縄を特集しました

 この間、『歴史地理教育』もコロナ感染に関する論稿を掲載すべきという声をいろいろな方から頂きました。特集なども非常事態なのだから、年間予定に拘らず、大きく変更してもいいのではという話もよく伺いました。しかし、実際は、4月号は年度の始めということで定番の古代史で、「令和改元」で話題の万葉集、そして成立1300年という古事記・日本書紀、5月号も定番の憲法記念日を意識した憲法の人権特集、そして6月号は沖縄戦の公式的な終結の月の6月を意識して沖縄戦後の歴史問題を特集しました。3回続けての定番といえば定番の企画です。だからこそ、緊急事態でも刊行できたという自負と、このままでいいのかという葛藤の狭間での編集でした。それでも3月増刊号で口絵写真に小泉元首相を登場させたり、4月号で記紀神話を特集したりと、これまでの『歴史地理教育』の枠を破る企画を実は進めてきました。コロナのお陰であまり注目されなかったようですが。

〇これからコロナ感染問題を積極的に取り上げます

それでも、6月号から感染症の授業報告や緊急事態宣言前後からの学校の休業による現場の混乱の報告などを順次掲載して行きます。そして全国大会の順延もあって、大会報告号に例年当てている11月増刊号で、「コロナ感染を生きる」(もちろん仮称)という特集を企画します。早くやれよと思っていたという声が聞こえそうですが、この決断はかなり厳しいものがありました。東日本大震災・福島第一原発事故以来の企画変更の特別号です。そして、震災・原発以上に厳しい条件があります。というのは、外出もままならないので、本屋1ついけません。編集会議も開けません。全国すべてというか世界全体が混乱していて、すべての地域、すべての人々が被災者です。誰が執筆してくださるか、不安でなりません。先日、原稿依頼したある研究者の方から図書館も閉鎖されていて、執筆は簡単ではないとお聞きしました。言われてみれば当然のことです。

 ただ、今回のコロナ問題ほど、私たちの社会が多くの問題を抱えていることを浮き彫りにした機会はないのではないでしょうか。アベノマスクの配布、ホームステーを求める首相の自宅での様子を伝えるインスタグラム、そして擦った揉んだで決まって中々支給されない一律10万円支給など、どれも国民のニーズに的確に応えているとは思えません。このズレはどこからくるのか。やはり、普段から国民の意識や生活からズレた政治が行われてきた結果というしかないのではないか。そこでコロナ感染自体の問題はもちろん、そこから見える私たちの社会の問題を抉り出す、そんな特集を構想しています。(若杉 温)