2022年度6月授業づくり講座のまとめ

By | 2022年7月1日

◆テーマ:「6年生の憲法学習-新学習指導要領下で憲法をどう学ぼうか-」
◆講 師:佐藤幸二さん(埼玉公立小学校教員)
◆参加者:18名 小学校6名 中学校3名 高校3名 特支3名 学生 3名

◆佐藤幸二さんからのコメント
講座での発言、その後の感想を読むにつけ、小学校社会科が抱える問題点を多くの方々と共有できたこ
と、その問題を小学校教員のみならず中・高教員、さらに大学で学ぶ「未来の教師」の方々と検討する
大切さを改めて実感しました。学校現場は多忙さを極め、追い打ちをかけるようなコロナ禍の対応は教
員の「教えること」への制約をいまだに加えています。子どもたちが学ぶ内容を「自分事」と受け止め、
自分の思いや願いを言葉に発して皆で真理を探究する授業づくりが大切です。
普段の生活から「平和」の中身を「自分事」としてとらえつつ、連日報道されるウクライナの「地下壕
で爆音に怯え、手にするゲームで恐怖を紛らわす男の子、缶詰に指を入れてすくいながら空腹を満たす女
の子」の姿を目にした時、私たちの子どもたちは「平和」とはどういった社会であるか、それを壊すもの、
それを守るものは何かをあらためて考えてくれるのではと思います。アプローチこそ違え、憲法や平和を
子どもと共に考える授業を今後も創造・実践したいものです。   

◆参加者の感想
○本日の佐藤さんのお話、大変興味深く聞かせていただきました。冒頭の井上陽水のことなど、佐藤さ
んのちょっと後輩の私には、とても懐かしいものでした。
中学校教員の私も、小学6年の社会科が政治・憲法→歴史の順になったことで、現場はご苦労されて
いると聞いていました。そのなかで、憲法を学ぶことで、その後の歴史を考える物差しになるという、
どなたかのご発言には「なるほど、そういう考え方もあるのか」と思いました。
しかしながら、憲法三原則が歴史的背景抜きに学ぶことは出来ないと思います。
佐藤さんは、平和主義の学習に沖縄戦をとりあげて「へいわってすてきだね」とからめて、平和とは何
かを考えさせる取り組みをされてとてもいいなあと感じましたが、やはり歴史を先に学んでいくほうが
二度手間にならなくてよいかなとも思います。
中学校では、歴史を踏まえて現憲法の意義を扱いますし、人々のたたかいの末勝ち取った「憲法は国
家権力を縛るもの」という点も理解しやすいと思います。(小学校では扱わなくても、中学校でも十分
にできているか課題でもありますが)なにより「人権」や「民主主義」が「すでにあるもの」として学
んでも、三原則の大切さが印象に残らないような気がします。
「住民が地域の主人公」「国民が主人公」という憲法の原則を、実際にたたかっている人々から学ば
せたいと思います。(地理でも歴史でも)小学校で具体的な地域や時代に即してイメージを持たせられ
たら、中学校としてはやりやすいと思っています。小中の実践交流も大事ですね。いろいろと触発され
たお話でした。佐藤さん、本当にありがとうございました。(Iさん)

○6年生の最初におこなった「鬼滅の刃をとおして、日本社会の歴史やしくみをのぞく」授業は、児童
の流行や文化を把握した上で教材化をし、初めて出会う先生だったからこそ、児童の興味関心を高めら
れたと考えた。日常から教材になるものを探して、授業実践をすることの大切さを感じました。
 新学習指導要領の下での憲法学習は、学校現場でも混乱を招いています。佐藤先生もおっしゃってい
たように、憲法学習が先に来ると、日本国憲法が歴史の中でどのように位置づけられたものが分からな
いため、歴史学習との結びつきが浅くなり、理解を深められないと考えました。さらに、日本国憲法は
とっつきにくいため、いかに言葉をかみ砕いてわかりやすく指導するかがより大事であることを学びま
した。
 「平和」を身近に考えることについては、ウクライナ戦争のこともあってか、私自身が「平和とは、
戦争のない状態」という固定観念で考えていたことに気づかされました。普段の生活でやりたいことが
不安なくできる状態も「平和」の1つであることを学び、もう1度「平和」とはどういった社会であるか、
今の自分は果たして「平和」な状態と言えるのかと問い直すきっかけとなりました。日本国憲法の学習
を軽視する反面、国防意識を重視するような内容も含まれていることは、歴史の中の憲法の過程を全く
無視した、極めて危険な状態です。中高では単なる暗記だけに終わらず、戦争の惨禍を繰り返さないた
めにも、9年間(+3年間)を広く見通して、深め続けなければならないと考えました。(Kさん)
○今回、初めて授業づくり講座に参加させて頂きました。私は高校の教員をしているので、今回の佐藤
幸二さんの小学校での憲法の授業についてのご報告は、いろいろな点で新鮮でした。普段接している高
校生を見ていて、小学校以来憲法については、いろいろなことを習ってきているだろうと思っているの
ですが、その実際については、なかなか知る機会がありませんでした。その意味で、今回のご報告には
いろいろ目を開かれることがありました。
 まず、小学校でこれだけ系統的に憲法学習がおこなわれていること、三原則はやはり必ず取り上げる
一方、立憲主義については必ずしも教えないこと、従来は歴史学習が6年生の前半にあって、戦争の惨
禍を知って、憲法の平和主義を学ぶため、その意義が自然に理解できるようにカリキュラムが構成され
ていたこと、ところが、最近の教科書ではこれが逆転して憲法学習の後に歴史学習が来て、平和主義と
戦争体験の繋がりが子どもに見えにくくなっていることなど、興味深いと同時にとても心配なことを具
体的な現場の事情を踏まえて語って頂き、よく理解できました。歴史学習を先に学ぶべきという佐藤さ
んの提案が業者テストとの関係で若い同僚の方々に受け入れられないというような話は、学力テストが
全国一斉実施になって以来、小学校現場が大きく変わった、という以前からお聞きしている話に重なる
重要な問題と思われました。
 ただ、一方で実際に憲法を先に学んでいることで、歴史学習で戦争について学ぶ際にその意義を自覚
して子どもが勉強できるという利点もあるとの指摘は、やはり授業してみないと実際のことはわからな
いということを改めて確認できました。憲法の学習を先にやらざるを得ないとしてもそれを前向きにと
らえて、次の歴史学習の後、再度憲法について平和主義を中心に学び直すというやり方もあるのだろう
と思いました。こうした点は社会科が解体されて科目別にバラバラに歴史や公民学習をせざるを得ない
高校でも取り入れたい授業の在り方だと思いました。例えば、十五年戦争の学習の冒頭に、不戦条約を
取り上げて日本国憲法の平和主義に繋がることを最初に学んで、それがどのような戦争体験から生まれ
てきたかをテーマに戦争の歴史を学ぶというような展開が想定できるのではないかと思いました。(W
さん)
○佐藤先生の憲法の授業実践について、特に印象に残ったのは絵本を用いて生徒一人一人の「平和」を
考えさせる試みです。「平和」という言葉は「戦争がない」という状態を指すだけでなく、友達と話し
たり、家族とご飯を食べたりする日常が「平和」であると捉えなおすことはとても重要なことだと思い
ました。「平和」だからこそ、自身の楽しかったり、嬉しかったりする瞬間が守られていると認識する
ことで、「平和」という言葉と日常生活がより結びつけやすくなると思います。そのような認識が、自
身の「平和」が脅かされそうな時に抗議の声を上げることや、現代社会が置かれている状況が本当に「
平和」であるのか問い直すきっかけになると思いました。「平和」を学ぶことは、自分や自分の周りの
人々を大切にすることを学ぶことでもあると考えさせられた講座でした。ありがとうございました。
(Rさん)
○正直に言いますと、これまでは小学校の先生の実践報告を「参考」としてしか捉えていませんでした。
中学校や高校の授業に活かせることは何か、といった感覚で聴いていることが多かったです。しかし、
この4月から小学校に配属されたので、今回は全てを聞き逃さないように、そして、今の授業に活かせ
ることを探そうと、課題意識を持って参加しました。
 教科書がいろいろな意味で変わってきているなか、佐藤幸二さんは歴史と憲法の結びつきを薄くしな
いよう、授業の導入を工夫したり、歴史を学んだ上で、憲法について考えることができるよう仕掛けを
したりしていました。また、『鬼滅の刃』を年度当初の社会科の授業で扱い、子どもたちの関心をひき
つけようとしている点が、本当に子ども想いの授業で良いなと思いました。そして、佐藤さんは、子ど
もが書いた絵を許容したり、子どもの関心事を意識したりと、子ども想いの先生だなと感じました。
 今回のお話のなかで得た情報として、今後の参考になりそうなのが、「単元の入れ替え」についてで
す。いろいろな場でお話を聞いていたからこそ、教科書の使用方法や単元構成、授業テーマの扱い方は、
厳しいものだと感じていました。しかし、学習指導要領で指示がない限り、学校裁量で、単元の入れ替
えや工夫はしても良いことになっていることを知ることができました。これによって、少し気持ちが楽
になりました(あの後、学習指導要領の総則でそのことに触れる文言を見つけました)。小学校では市
販のテストを使う関係で、大幅な単元の入れ替えはできません。それでも、前後を入れ替える程度のも
のであれば、自由がきくということが分かりました。4年生の社会科でも単元の順番に疑問を感じてい
たので、堂々と入れ替えることができます。
 今年度は、3、4年生の社会科専科になりました。地域学習など、私がこれまで勉強してこなかった
分野を扱っており、毎日授業をつくるのに、精一杯です。また、中学や高校と違って、小学生は一つ一
つ丁寧にステップを踏む必要があるので、そこでも難しさを感じます。そんななか、佐藤幸二さんの授
業づくりの視点と、寛容な姿勢が、とても勉強になりました。
 また疑問として、6年生の段階で学ぶ「歴史」とはどのようなものなのか。6年生の歴史は、どのよう
な扱い方をすれば良いのかということが気になりました。気になるテーマでもありますので、またいろ
いろな方と深めていきたいです。もし自分が、6年生を担当することになったら、どのような授業展開
をしようか、と考えています。分からないことだらけの初任者で、毎日乗り越えるだけで精一杯ですが、
やはり、この授業づくり講座に参加して良かったなと思いました。子ども想いの授業づくりを私も心が
けたいです。(Yさん)                              
○小学校での憲法学習について、新学習指導要領になっての授業実践をとても興味深く聴くことができ
ました。歴史学習と政治学習などの公民的な分野の教える順番が変わったことで現場の教員もどのよう
に教えていくかで悩んでいる状況があることを知りました。その中で、これほどの実践が行えているこ
とは、どんなこともやってみなければ新しい授業は見えてこないのだなと授業づくりの面白さを感じま
した。
 また、その時々の子ども達の流行りや身近な出来事を取り入れながら、子どもを社会科の授業へと引
き込む導入などは自分も参考にしていきたいです。ありがとうございました。(Hさん)