clickで拡大
  歴史教育者協議会 編

 石碑と銅像で読む
     近代日本の戦争
             高文研・本体価格1600円+税
 悲惨な戦争も歳月が経つとともに、その「記憶」は次第に消えていく。経験者がいなくなるからだ。しかし、「戦争の記憶」を伝えてくれるものが完全になくなるわけではない。まずあげられるのは戦争遺跡である。軍事施設としての建物や地下壕などは、いまでも数多く遺されている。次に、「石碑」や「鋼像」がある。それらが戦争遺跡と異なっているのは、戦争にかかわる何らかの記憶を意識的に伝えようとして建立されたことにある。本書は、この「石碑」や「銅像」を通して、近代日本の戦争と平和を見、考えることを目的に編んだものである。
本書は、幕末にロシアの南下を怖れて配置された東北の藩士の苦闘を物語る碑からはじまり、戊辰戦争、西南戦争、日清・日露戦争、シベリア出兵、そして日中十五年戦争、アジア太平洋戦争を通して、日本がどのような戦争を行ってきたかを伝えるとともに、日本人の「戦争観」について考えてみた。
なお、石碑や銅像の選択に際しては、戦争の本質がよりわかるものを選んだ。近代の戦争では兵士の戦死にとどまらず、多くの非戦闘員が犠牲となった。広島・長崎の原爆や全国各地での空襲被害、沖縄戦の実相などを伝えるものは特に重視した。また、どのようにして民衆が戦争に巻き込まれたか、さらに被害者である民衆が加害者になっていく戦争の構造や、戦争に抵抗し、平和を求めた動きが理解できる「石碑」や「銅像」を意識的に取り上げた。
 
また、本書では紙数の制約から、日本の戦争により大きな被害をうけたアジアの人たちの「石碑」などは取り上げられなかった。別の機会に深めたい課題である。本書が、戦争を知らない世代にとって、近代日本が行った「戦争」を考える一助になることを期待したい。
                     歴史教育者協議会『石碑と銅像で読む近代日本の戦争』編集委員会

明治維新前後
   ▼珈琲豆の碑 − 幕末の北の守り≠ナ倒れた津軽藩兵
   ▼「招魂場」の碑 − 戊辰戦争・明治政府軍戦没者を祀る
   ▼碧血碑 − 戊辰戦争・幕府軍の戦死者を祀る
   ▼屯田兵招魂之碑 − 西南戦争での屯田兵戦死者を祀る
   ▼西南戦争関連の碑 − 日本の大陸膨張政策と軌を一にした西郷隆盛の復権
   ▼竹橋事件殉難者の碑 − 最初で最後の兵士の反乱 日清・日露戦争
   ▼第七師団営舎落成記念碑 − 政と財の結託を象徴
   ▼昭忠碑 − 建国神話に由来する巨大な金の鵄
   ▼八甲田雪中行軍道難者の墓碑 − 軍への非難を恐れ、戦死者&タみの慰霊
   ▼樋口配天の「梭の音」碑 − 日露戦争時、反戦歌を詠んだ詩人
   ▼歌碑「戦友」碑 − 戦争に駆り出される兵士の悲哀
   ▼「君死にたまふことなかれ」歌碑 − 母校の校庭に建つ与謝野晶子の反戦歌
   ▼縄掛け地蔵尊と由来碑 − 召集令状回避の願いを込めた延命地蔵
   ▼元ロシア人兵士之墓 − ロシア軍捕虜三名の墓碑
   ▼安藤正楽の日露戦役記念碑 − 「忠君愛国」を否定して全点へ削り取られた碑文
   ▼第七師団忠魂碑 − 屯田兵の招魂碑を埋め立てた上に
   ▼決別の碑 − 代々木練兵場に土地を奪われた住民が建立
   ▼「一太郎やあい」像 − 官民挙げての軍国美談づくりの熱狂
第一次世界大戦・シベリア出兵・関東大震災
   ▼第六潜水艇殉難碑 − 漱石が「名文」と讃えた艇長の遺書
   ▼徳島板東俘虜収容所「ドイツ兵の墓」
    − 第一次世界大戦で日本軍捕虜となったドイツ軍兵士
   ▼米騒動の碑 − 富山から全国に広がった民衆の蜂起
   ▼シベリア出兵・田中支隊忠魂碑 − 靖国神社に建つロシア革命干渉戦争の碑
   ▼「尼港事件」犠牲者納骨堂と殉難碑
    − シベリア出兵の中で引き起こされた悲劇を伝える
    ▼佐藤三千夫之碑 − シベリア出兵に反対し、ロシアに渡った反戦活動家
   ▼「追悼 関東大震災朝鮮人犠牲者」の碑
    − 関東大震災で虐殺された朝鮮人六千人の慰霊碑
   ▼関東大震災朝鮮人犠牲者慰霊の碑 − 「自警団」によって虐殺された朝鮮人の慰霊碑
   ▼陸軍造兵廠東京工廠跡記念碑 − 大阪砲兵工廠と並ぶ兵器・弾薬の一大製造工場
十五年戦争
  【教育】
   ▼楠木正成銅像と刻文 − 天皇制軍国主義時代の「忠君愛国」の象徴
   ▼教育塔 − 教育界の靖国神社″
   ▼御真影守護殉職者の碑 − 火災や空襲下、「御真影」を守って落命した教師たち
   ▼紀元二千六百年文化柱 − 新聞社の社長が建てたタイムカプセル
  【戦意高揚・国威発揚】
   ▼陸軍岩鼻火薬製造所「殉職者之碑」 − 火薬製造の事故死者も戦死者″と同格の扱い
   ▼肉弾三勇士のレリーフと銅像
    − 戦争への熱狂をあおるために作られた国民的英雄
   ▼傷痍軍人「再起奉公」の碑 − 戦争で傷病を負った兵士たちのための碑
   ▼大村益次郎の銅像と碑 − 日本陸軍創設者の銅像と巨大な報国碑
   ▼八紘一宇の碑 − 礎石は中国大陸の占領地、植民地などから集められた
   ▼禁演落語「はなし塚」の碑 − 遊郭などを題材にした演目を封印した落語協会
  【反戦・抵抗】
   ▼山本宣治の碑 − 警察に倒され、碑文を塗りつぶされた無産政党指導者の碑
   ▼阪口喜一郎顕彰碑 − 海軍内で反戦活動、憲兵隊に虐殺された活動家の碑
   ▼鶴彬川柳碑 − 戦争の悲惨を痛烈に詠んだ反戦反軍の川柳人
   ▼竹内浩三詩碑 − 芸術を愛した戦没学生と遺族の思いを刻む
   ▼京都解放運動戦士の碑 − 獄死、虐殺された戦前の社会運動家たちの追悼碑
  【出陣学徒】
   ▼「出陣学徒壮行の地」の碑
    − 10万の学徒が戦場へ動員された「学徒出陣」の壮行式
   ▼特攻隊員・上原良司のメッセージ碑
    − 日本の戦争の本質とその後を見とおしていた学徒兵の「遺書」
  【特攻】
   ▼海上特攻隊の碑 − 八丈島に建つ第十六震洋特別攻撃隊の記念碑
   ▼宮崎特攻基地「鎮魂」の碑 − 沖縄特攻作戦の出撃基地
   ▼知覧・朝鮮人特攻隊慰霊碑 − 知覧から飛び立った二人の朝鮮人特攻隊員
 【強制連行・従軍慰安婦】
   ▼劉連仁生還記念碑 − 13年間の逃亡生活を送った中国人強制連行の被害者
   ▼花岡事件「共楽館址」の碑
    − 強制連行され、奴隷労働≠強いられた中国人たちの一斉蜂起
   ▼「噫 従軍慰安婦」の碑
    − 日本人としてただ一人名乗り出た「慰安婦」の鎮魂の碑
   ▼相模ダム工事犠牲者の「湖銘碑」
    −中国人捕虜、強制連行された朝鮮人犠牲者を悼む碑
   ▼天竜川・平岡ダム 中国人殉難者の慰霊碑
    − 約九〇〇人の中国人が一日パン三個で働かされた
   ▼中国人殉難者供養観音碑
    − 長野・木曽地方の発電所工事で犠牲となった中国人を悼む碑
   ▼大江山二ッケル鉱山 日本中国悠久平和友好之碑
    − 連合軍捕虜・中国人・朝鮮人約千人が強制労働させられた
 【建造物・記念地】
   ▼風船爆弾放流地跡「わすれじ平和の碑」
    − アメリカ本土攻撃をめざして作られた一万発の風船爆弾
   ▼「直江津捕虜収容所跡」の碑
    − 日本・オーストラリア平和交流の地となった捕虜収容所跡
 【動物】
   ▼戦没軍馬の碑 − 日清戦争から太平洋戦争まで日本軍の兵站を支えた軍馬
   ▼満州事変軍馬戦歿之碑 − 仙台第二師団に従軍″した軍馬・軍用動物の慰霊碑
   ▼陸軍登戸研究所・動物慰霊碑
    − 生物化学兵器の研究所に建てられた謎の「動物慰霊碑」
   ▼名古屋・東山動物園の象列車記念碑
    − 「処分」されなかった象が「象列車」になった
 【空襲】
   ▼東京初空襲関係の墓碑 − 日米開戦から五カ月、真珠湾奇襲への米軍の報復爆撃
   ▼学徒勤労動員「散華乙女の記念樹」の碑
    − 戦争末期、学生・生徒も軍需工場に根こそぎ動員された
   ▼慰霊碑 哀しみの東京大空襲 − 一夜で10万人の死者を出した東京大空襲
   ▼横浜大空襲「平和祈念碑」
    − 横浜を焼き払い、死者一万人を出した2570トンの焼夷弾爆撃
   ▼台湾少年工の碑 − 神奈川・高座海軍工廠で働いた台湾の少年工
   ▼半田・平和祈念碑 − 空襲のほか、朝鮮人も含むすべての戦災犠牲者の追悼碑
   ▼「堺市戦災殉難之地」の碑 − 9万8千発の焼夷弾が落とされた堺大空襲
   ▼豊川海軍工廠戦没者供養塔 − 八月七日の大空襲、死者2500人以上
   ▼京橋駅爆撃慰霊碑 − 「終戦の日」前日の大空襲
   ▼大阪「砲兵工廠跡」の碑 − 第八次大阪大空襲で建物の80%が焼失
 【沖縄戦】
   ▼平和の礎/魂魄之塔
   ▼ひめゆりの塔/沖縄師範健児之塔
   ▼京都の塔/韓国人慰霊塔
   ▼渡嘉敷島・「集団自決跡地」の碑/忘勿石の碑
   ▼小桜の塔/芳魂之塔
   ▼戦没新聞人の碑
 【原爆】
   ▼「模擬原子爆弾投下跡地」の碑 − 原爆投下の予行演習で被災者1645人
   ▼原爆の子の像/原爆犠牲ヒロシマの碑
   ▼世界の子どもの平和像
   ▼峠三吉詩碑/韓国人原爆犠牲者慰霊碑
   ▼「原子爆弾落下中心地」の碑
   ▼松尾あつゆき句碑
   ▼「長崎原爆朝鮮人犠牲者追悼」の碑
   ▼乙女の像と長崎刑務所浦上刑務支所跡
   ▼移動劇団・さくら隊原爆殉難碑 − 慰問先の広島で被爆した演劇人たち
 【鎮魂・慰霊】
   ▼千鳥ケ淵戦没者墓苑 − 約35万の無名$没者を悼む
   ▼満蒙開拓団殉難者の碑
    − 国策で満州に渡り、軍にも国にも見捨てられた開拓団の悲劇
   ▼青函連絡船海難者慰霊碑 − 青函航路に就航していた12隻が全滅
   ▼戦没プロ野球選手の「鎮魂の碑」 − 東京ドームに建つ67人の野球選手の慰霊碑
   ▼硫黄島旧島民戦没者の碑 − 軍命で島に残留、守備隊と共に戦没した旧島民
   ▼戦没船員の慰霊碑 − 軍人の死亡率をはるかに上回った船員6万余人の戦没者
   ▼大久野島毒ガス障害死没者慰霊碑 − 犠牲者の追悼と毒ガス兵器廃絶を誓う碑
戦後−引揚・復員・戦犯・戦後教育・旧植民地
   ▼平和の群像・浮島丸「殉難の碑」 − 引揚・復員の玄関口・舞鶴に建つ二つの祈念像
   ▼樺太引揚三船殉難「平和の碑」
    − 終戦直後、ソ連潜水艦に沈められた樺太(サハリン)からの引揚船
   ▼童謡「里の秋」の碑 − 帰還兵・留守家族の心を揺さぶった童謡
   ▼シンガポールチャンギー殉難者慰霊碑
    − 朝鮮人・台湾人を含むBC級戦犯の慰霊碑
   ▼撫順戦犯日本兵の碑 − 戦犯管理所跡に建てられた「向抗日殉難烈士謝罪碑
   ▼スガモ・プリズン跡「永久平和を願って」の碑
    −「A級戦犯の慰霊、顕彰」と建設反対運動も起こった碑
   ▼お婆さんたちが建てた「平和紀念碑」
    − 敗戦の翌年、4人の「老婆」が立てた平和への誓い
   ▼混血児の母・沢田美喜の碑
    − サンダースホームで命を救われた子ども1102名
   ▼機雷爆発63名爆死「平和をまもる」の碑
    − 機雷処理の巡査、見物の子どもたちが犠牲に
   ▼「戦死せる教え児よ」竹本源治の碑
    − 「再び教え子を戦場に送るな!」戦後教育の原点となった詩
   ▼日中不再戦の碑 − 日中友好協会が「不再戦」を祈念した碑建立・植樹祭運動
   ▼台湾人戦争犠牲者の「霊安故郷」慰霊碑
    − 植民地支配と戦争の二重の「犠牲」を考える
   ▼太平洋戦争犠牲韓国人慰霊碑
    − 日本軍の軍人・軍属として戦没した朝鮮人約2万柱を納骨
   ▼元朝鮮人学徒兵が建立「大韓祖国守護一念碑」
    − 「志願」させられた朝鮮人の独立∞統一≠ヨの願い
   ▼サイパン・テ二アンの戦争関連碑
    − 日本軍全滅・民間人「集団自決」・原爆搭載機の発進基地
※地域別・本書に収録した石碑と銅像一覧