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▼ 父母・市民・教育関係者の願いを裏切る小・中学校新学習指導要領に抗議し、撤回を求める 08/04/10
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▼ 沖縄戦の事実を歪曲する検定意見を撤回し,教科書検定制度の抜本的改革を求める意見書 08/04/10
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▼ 沖縄戦での日本軍による「集団自決」強制の事実を歪めた高校日本史教科書検定に抗議する 07/4/21
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▼ 違憲の教育基本法を具体化する教育関連四法案に反対する(声明) 07/4/4
▼ 改憲手続き法案(国民投票法案など)の廃案を求める(声明) 07/4/4
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田母神・前航空幕僚長問題についての歴史家有志の見解
(長文のためにこちらへ  Word文)

【声明】
  田母神「論文」問題にみる歴史の歪曲を許さず、
           日本が再び過ちを繰り返さないための歴史教育を


  ホテルチェーンのアパグループが募集した懸賞論文「真の近現代史観」に、田母神俊雄前航空幕僚長が応募し、「日本は侵略国家であったか」という「論文」が最優秀賞に選ばれた。同じ懸賞論文には、多くの自衛官からも応募があったという。このことが報道されると、田母神前航空幕僚長の歴史観に共感する声もあがっていることが伝えられている。
 私たちは、歴史を事実に基づいて学ぶ歴史教育・社会科教育、日本の戦争責任を明らかにし、過去の誤った歴史教育を正すことこそ、国民が共有できる歴史観であると考えている。この点からも、今回の田母神「論文」問題は見過すことができない。
 以下、問題点をあげておく。

 一つ目は、田母神「論文」は、過去の日本の植民地支配と戦争を正当化するために、都合のよい歴史観(ほとんどが戦前の国家側のプロパガンダと冷戦期のコミンテルン陰謀史観)を自らの主張に取り込んだにすぎないこと、それも何ら検証することもなく書き綴ったものである。このような歴史研究に値しない「論文」、歴史観は、日本のみならず、国際社会で通用しない。

 二つ目は、現職の航空幕僚長という立場で、自らの歴史観を述べたことに対し、政府は職を辞めさせたが、理由は、村山談話にはじまる政府見解と異なることと、文民統制だとした。しかし、今もって政府は、田母神歴史観を批判してはいない。「(論文の)個々の記述にはコメントしない」と繰り返し、辞めさせたことで、歴史観については蓋をしている。

 三つ目は、統幕学校で、田母神歴史観に基づいた「歴史観・国家観」の講義をおこなっていたこと、田母神前航空幕僚長自身、自衛隊内で侵略戦争・憲法否定の講話を公然とおこなっていたことも明らかにされた。従って、これは、過去の侵略戦争を美化する教育が自衛隊内に蔓延していたことを示している。自衛隊員をこのような偏った歴史観で洗脳する教育がおこなわれていたことは問題である。

 四つ目は、田母神「論文」が公になったことで、これに共感する政治家やマスコミも登場した。この田母神歴史観が、自衛隊の海外派兵と集団的自衛権の行使をめざした改憲勢力とつながっていることがより明らかになっている。改憲のための世論づくりの一翼を担う田母神「論文」は、日本国憲法を踏みにじるものである。

 田母神「論文」問題の批判を通して、私たちは、歴史の歪曲を許さず、日本が再び過ちを繰り返さないための歴史教育を多くの人たちと共有することを求めていく。
 
 2008年12月11日                      歴史教育者協議会常任委員会

声明
 教科書に歴史の真実を 沖縄戦・強制集団死の事実をみんなのものに


  私たちは、これまで歴史の事実を教育の場で学ぶこと、教科書には歴史の事実を正確に記述し、真実を明らかにすることを求め続けてきました。

2008年3月28日、「大江・岩波沖縄戦裁判」の第一審判決(大阪地裁)は、「集団自決」について、「日本軍が深く関わったものと認めるのが相当」とし、強制集団死(「集団自決」)が日本軍の強制、命令、誘導により発生したものであることを事実上認めました。この判決では、自決命令は出していないと主張した原告・梅澤裕元隊長の陳述の信用性をほぼ全面的に否定したのです。このような判決が出されたのは、法廷に提出されたものも含めて体験者の証言がきわめて具体的に沖縄戦の真実を明らかにしたからにほかなりません。
こうした事実に照らすならば、文部科学省が2006年度の高校日本史教科書の検定で、係争中の「大江・岩波沖縄戦裁判」における梅澤陳述書を主要な根拠にして「集団自決」が日本軍の強制によるとの記述を削除したことは、もはやその正当性をまったく失ったといわなければなりません。

この問題では、2007年9月29日に検定意見撤回を求める県民大会が開かれ、11万人余の沖縄県民が集まり抗議の声をあげました。しかし、今日まで、文部科学省ならびに検定審議会は、誤った検定意見を撤回するにいたっていません。こうして誤った検定意見を押し通し、歴史の改竄を国家権力が率先しておこなうことは、断じて許すことができません。それは、歴史を冒涜するものであり、子どもに偽りの歴史を押しつけるものと言わざるを得ません。
このような権力の動きに抗し、歴史の真実、戦争の真実をゆがめてはならないとする沖縄戦体験者をはじめとする多くの人々の努力によってかちとられた大阪地裁判決は、きわめて大きな歴史的意義をもつものです。
しかも、沖縄戦の事実とそれに対する検定の問題は決して沖縄だけの問題ではありません。戦争の悲劇をふたたび繰り返さず、国際平和を築くために、日本国民全体が、またこれからの時代を受け継いでいく子どもたちが、共通に認識しなければならない重要な問題です。そして、子どもたちに真実を伝えるためには、教科書が果たす役割は重要です。
私たちは、大阪地裁判決を生み出した多くの人々の歴史の真実を伝えようとする動きに励まされつつ、今後も、沖縄戦の歴史を含め、戦争の真実を明らかにする教育実践を広げ、そのための教科書づくりを求めていきます。教科書に歴史の真実を、沖縄戦における強制集団死の事実をみんなのものにしていきましょう。
2008年4月27日
歴史教育者協議会常任委員会

声明
 父母・市民・教育関係者の願いを裏切る小・中学校新学習指導要領に抗議し、
 撤回を求める


 小・中学校の新学習指導要領が3月28日に告示された。それには2月15日に公表した改訂案にはなかった「それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し」という文言が総則に入れられるなど、「改正教育基本法の趣旨をより明確にする」との理由で、改訂案の「異例の修正」がおこなわれた上での告示だった。その背景として「書き換えを迫る政治家の圧力」があったと報道されている。教育基本法第16条には「教育は、不当な支配に服することなく…」とある。「圧力」は、まさしく「不当な支配」である。こうした問題も含め、告示された新学習指導要領の内容は、父母・市民・教育関係者の教育に対する強い願いにそむいたものである。したがって、わたしたちは、以下の点から新学習指導要領に抗議するとともに撤回を求める。

 第一に道徳教育が強調され、全ての教科等で道徳の内容の適切な指導をすることが明記された。そのために「道徳教育推進教師」を中心とした道徳教育の推進・指導体制の強化をおこなおうとしている。子どもたちが心豊かに成長できていないことは多くの父母・市民・教育関係者の悩みである。しかし「道徳教育の充実」の中身は、子どもたちの心の悩みにふれあうことではなく、規範意識を養うことが重点とされている。これでは問題の解決にはつながらない。子どもたちの成長が阻害されている要因は、幼いころからの競争教育の社会の存在、家庭の経済格差が子どもの学習意欲や進学に大きな影響を及ぼしていること、そして将来への見通しが持てないことなどである。また学校はいつまでも40人学級のまま放置され、教師たちが子どもたちに親身になって対応できる状況がつくられていない。道徳教育の強化は、ますます教師と子どもたちの距離を広げ、反発を強めさせるだけである。大切なことは規範意識を一方的に押し付けることではなく、子どもたちの心に寄り添い、経済的な格差のために十分な教育を受けられない子どもたちを支援することである。そのために教職員の増員と教育条件の整備、教育予算の増額は必須である。

 第二に伝統や文化に関する教育の充実が強調されている。それは道徳教育の強化ともつながりながら、社会科だけでなく、国語、生活、音楽、体育、総合的な学習の時間などで「伝統と文化を継承し、発展させ」ることが求められている。わたしたちも伝統と文化を大切にする。そこには多くの人々の生活が伝えられているからである。しかし伝統は一様ではなくさまざまであり、わたしたちは過去から現在まで多文化の中で生活してきた。伝統と文化は常に新しいものを取り入れ変化・発展している。わたしたちは伝統と文化をただ継承するのではなく、批判的な精神をもって継承・発展させるものである。 また生活科に「地域のよさに気付き、愛着をもつ」という目標が入ったことからもわかるように、低学年から「郷土愛」を育て、それを「国を愛する心情」につなげようとしている。わたしたちは地域学習をきわめて大切にしてきた。それは地域に生きてきた人々の豊かな生き方、未来への努力を学ぶためであり、「愛着」とか「心情」を育てようとするものではない。わたしたちはこれからも地域に根ざした学習を進め、偏狭な「郷土愛」や「愛国心」の押し付けに反対する。

 第三に学力向上、とくに言語活動の充実が各教科等で強調されている。これは明らかにPISA(OECD生徒の学習到達度調査)を意識したものだが、レポート作成の技術を高めるだけでPISAの点数が上がると考えるのはあまりに一面的な理解である。日本の子どもたちが論述問題に弱いのは、書く技術が身についていないからではなく、自分で思考する力が育てられていないからである。PISAで高得点をあげ注目されている国の教育は、少人数で課題に対して集団討議をすることをとおして考える力を育てていることで知られている。そこでは習熟度別学習はおこなわれていない。
 また新学習指導要領では学力を「基礎的・基本的な知識及び技能」「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力」「主体的に学習に取り組む態度」と三層に分けている。しかし前回の学習指導要領が新しい学力観(自ら学び自ら考える力の育成)にもとづいて作成されたことについての反省・検討はひとこともない。それぞれの学力観への賛否また当否はあっても、「教育課程の大綱的基準」であるとする学習指導要領が学力観まで規定し、それによって学習方法まで細かく定めることはあってはならないことである。学力観については教師や研究者がさまざまに研究し、議論し、実践をとおして深めるべきものであって決して国が定めるものであってはならない。くるくると変わる学習指導要領の学力観によって一番被害を受けるのは子どもである。

 第四に、今後中教審の審議などをとおして「重点指導事項例」が示されることが予想される。「社会的な自立の観点から重要である」「子どもたちがつまずきやすい」などの理由で学習指導要領の指導内容の強弱までも文科省が決めるものである。これは、学力観の規定による学習方法の規制とも合わせていっそうの統制強化といえる。わたしたちはあくまでも子どもたちの実態から出発した教育活動の創造のために、上からの統制強化ではなく学校の教育課程編成権の尊重を求める。

 第五に、小学校音楽で「国歌『君が代』はいずれの学年においても歌えるよう指導すること」とされたことは、思想・良心の自由の侵害である。わたしたちは、こうした学校での強制に反対する。
 学校はさまざまな困難を抱えている。子ども、保護者も苦しんでいる。そこに見通しを与えるのが本来の教育行政の役目であり、学習指導要領の役目であるはずだ。わたしたちはこれまでも、これからも実践と研究をとおして子どもたちの成長に役立つ教育課程の創造に向けて努力していくものである。
2008年4月10日
                              歴史教育者協議会常任委員会

アピール 昭和天皇を讃え侵略戦争を美化する「昭和の日」に反対する

 昨2007年から4月29日の祝日の名が「みどりの日」から「昭和の日」に変わりました。昭和天皇の誕生日だった4月29日を「昭和の日」という名の祝日にしたのは、もともと右翼団体がこの日を昭和天皇を偲ぶ日にしようと運動をすすめた結果です。その中心にいる人物は、南京虐殺はなかった、「従軍慰安婦」に軍の関与も強制もなかった、沖縄戦「集団自決」にも軍の強制はなかったと主張している人々です。
 国民の祝日法はこれら右翼の主張を大部分取り入れて、「昭和の日」の趣旨を「激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす」と規定しました。しかしここには戦争への反省もなく、アジア侵略への反省もなく、侵略戦争の時代も敗戦後の日本国憲法のもとでの時代も、「復興を遂げた昭和の時代」と全面的に肯定し美化しています。それは「つくる会」教科書での昭和天皇の全面的美化と瓜二つです。
 したがって「昭和の日」制定のねらいは明白です。それは、侵略戦争で国内外の数千万の人々を犠牲にした責任者である昭和天皇と天皇制の戦争責任を、歴史の事実をねじまげて免罪することであり、「つくる会」教科書と同じように「慰安婦」、沖縄戦、南京虐殺など天皇の軍隊の戦争犯罪を隠すことです。そして、侵略戦争と植民地支配を美化し、国家が行う戦争とそのための軍隊に奉仕する国民をつくりあげることです。まさに憲法改悪のねらいと一体のものということができます。
 日本国憲法の下で制定された国民の祝日法は、国民の祝日の意義を「国民こぞって祝い、感謝し、又は記念する日」としています。「昭和の日」はこの規定にもまったく反するものです。
 よって私たちは「昭和の日」を国民の祝日として認めることはできません。私たちは「昭和の日」が右翼勢力・改憲勢力に利用されることのないよう、あくまでも「昭和の日」に反対し続けることを宣言します。

2008年4月20日
                「建国記念の日」に反対し思想・信教の自由を守る連絡会
            連絡先 歴史教育者協議会(03-3947-5701) 憲法会議(03-3261-9007)


沖縄戦の事実を歪曲する検定意見を撤回し,
教科書検定制度の抜本的改革を求める意見書

 2006年度検定は、沖縄戦における「集団自決」を住民が自発的に行ったものであると誤解させるような記述に書き換えさせた。その検定意見はいまだ撤回されず、訂正申請によっても「軍による強制」の記述は復活しなかった。2007年9月29日に11万人が集まった沖縄県民大会での検定意見撤回決議、さらに全国各地で検定意見撤回の意見書が出された。それにもかかわらず、もっとも基本的な問題が解決されていない。あらためてその問題点を確認し、以下のことを文科省に求める。

1 沖縄戦の事実を歪曲した誤った検定意見を撤回すること。
 今回の沖縄戦の事実を歪曲した教科書検定の直接の発端は,特定の教科書調査官 の恣意的・政治的な検定意見の作成にある。それが、林博史氏の研究の非学問的な悪用、係争中の大江・岩波沖縄戦裁判の原告の一方的な見解の利用など、社会的常識に照らしていちじるしく逸脱した根拠にもとづくものであったことは、昨年来、 「歴史研究者・教育者のアピール」(2007年11月7日付)をはじめ多くの団体、個人の指摘で明白にされている。林氏は,著書『沖縄戦と民衆』が明らかにした学問的見解を正反対にゆがめて悪用されたことにたいし、理を尽くして批判する文書を公にされた。文科省は、林氏の批判を認め謝罪する責任がある。また、3月28日の大江・岩波沖縄戦裁判大阪地裁判決によって、検定の根拠とされた梅沢陳述書に信用性のないことが示された。係争中の裁判の一方の側の主張を教科書検定の根拠にしたことの責任が問われなければならない。さらに今回の検定の全過程を主導した教科書調査官の責任を明らかにすべきである。これらの点をあいまいにし検定意見の間違いを正さなければ、ふたたび同じ誤りを繰り返すことになる。
 ところが反対に、文科省は、各教科書の訂正申請に対して、教科書会社の役員を呼び、検定意見を前提にした「指針」(基本的とらえ方)なるものを押しつけた。これは数多の批判に耳を傾けずに検定意見を擁護したばかりでなく、さまざまな歴史事象について一つひとつ文科省の歴史観を押しつける道を開く不当なやりかたである。恣意的に政治的につくられた今回の検定意見は、撤回されなければならない。

2 二度とこうした政治的・恣意的な検定が行われないようにするため、次の通り検定制度を抜本的に改革すること。
@ 不透明な形で任用されている教科書調査官が検定を主導することをやめさせること。近い将来に教科書調査官制度を廃止すること。
A 検定審議会を文科省から独立した機関にすること。
B 教科書検定過程の情報を文書化して公開し、市民監視の下で検定が行われるようにすること。
C 検定意見の強制力を緩和し、執筆者の見解が尊重されるようにすること。
D 教科書検定制度を段階的に廃止すること。
                                  2008年3月30日
                             歴史教育者協議会全国委員会


 沖縄戦教科書記述の訂正申請結果についての声明
    検定意見の撤回と記述の回復、ならびに検定制度の改善を求める

 2007年12月26日、文部科学省(文科省)は、高校日本史の沖縄戦記述に関する訂正申請について、審議経過とその結果を発表しました。しかし、今回の発表は、検定意見の撤回を求めていた沖縄県民をはじめ多くの国民の要求を拒んだものでした。

 私たちは、2007年3月30日に公表された高校日本史の教科書検定で、これまで何度となく、沖縄戦での日本軍による「集団自決」強制の事実を歪める検定意見の撤回と記述の復活を求めてきました。文科省は、9月29日の沖縄県民大会の決議を受け、「訂正申請があれば対応する」との見解を教科書会社に表明してきました。そして12月、その訂正申請に対し、「指針」を伝え、再度の書き直しを指示したのです。結果として、文科省ならびに検定審議会は、検定は正しかったとして撤回を拒否するに至りました。文科省の見解は、住民に対する直接的な軍の命令によりおこなわれた根拠は確認できないとして、沖縄戦における日本軍の「集団自決」強制という趣旨の記述を削除するというものです。

 しかし、沖縄戦における「集団自決」が日本軍の強制や誘導のもとで起こっていたことは、多くの証言とこれまでの歴史研究で明らかにされ、これが通説となっています。そうした研究成果をもとに、従来の教科書では、日本軍による誘導と強制のもとで起こった「集団自決」という記述がなされ、教科書検定でも認めてきていたのです。今回、「検定は正しかった」とし、「集団自決」強制を削除した文科省の見解は、日本軍による誘導と強制の事実を隠し、沖縄戦での軍命による「集団自決」であったとの数々の証言や歴史研究を踏みにじるものです。

 歴史研究の成果と戦争の事実を子どもたちに伝えることが、「再び戦争を起こさない」「平和を愛する日本国民」の願いです。私たちは、今回の訂正申請における文科省の見解にあらためて抗議するとともに、文科省による歪んだ教科書検定を撤回することと記述の回復を求めます。また、密室検定を改めるなど、検定制度の改善を求めます。
 2008年1月10日
歴史教育者協議会常任委員会

   沖縄戦の事実を歪める教科書検定の撤回を求める
      歴史研究者・教育者のアピール

アピール
 2007年3月30日に2006年度高校教科書検定の結果が公表され、沖縄戦における強制集団死、いわゆる「集団自決」について記述したすべての日本史教科書に対して検定意見が付され、日本軍の強制・誘導・関与を示す記述がすべて削除されたことが判明した。その結果、「集団自決」が日本軍の命令や強制によるものではなく、あたかも住民の自発的な「自決」であるかのように記述されることになった。このような教科書の書き換えを強制した今回の検定は、沖縄戦についての長年の研究の蓄積をまったく無視し、合理的根拠を欠くきわめて恣意的なものであり、事実にもとづく教科書記述と歴史教育を求めつづけてきた私たちとしては到底容認できない。私たちは、文部科学省が今回の検定意見をただちに撤回し、著者・出版社による教科書記述の再修正を認め、2008年度には沖縄戦の事実を歪めることなく伝える日本史教科書が高校生に供給されるよう措置することを求める。そして、その実現のために、多くの方々が声をあげるよう訴えるものである。
アピールの趣旨
 沖縄戦における「集団自決」の悲劇は、沖縄県民にとって忘れることのできないものであり、そのため、この悲劇がなぜ、どのようにしておこったのかについては、体験者の証言をはじめさまざまな角度からの調査研究が進められてきた。その結果、住民が戦闘にまきこまれるなか、日本軍の「軍官民共生共死」という基本方針のもと、敵の捕虜になることの禁止が徹底され、軍が手榴弾を配付し、あるときは役場職員を介して自決指示を出したなどの事実が明らかになった。それにより、軍が直接住民にその場で自決命令を発したか否かにかかわりなく、「集団自決」がまさに日本軍に強制・誘導されたものであったことが明確になったのである。日本軍が存在しなかったところでは「集団自決」がおきていないこともそのことを証明している。第三次家永教科書訴訟の最高裁判決においても「日本軍の存在と誘導」が認定され、「一律に集団自決と表現したり美化したりすることは適切でない」とし、「県民が自発的に自殺したものとの誤解を避けること」が必要としたうえで判決が書かれている。こうして「集団自決」が日本軍の強制によるものとするのが通説となり、従来の多くの教科書はその通説に従って記述し、約20年にわたって検定意見が付されることなく合格してきたところである。
 文部科学省は、今回の検定意見を付すにあたって、2005年に大阪地裁に提訴された元隊長らを原告とする裁判での元隊長の陳述書を事実上もっとも重要な根拠にしているものとみられる。しかしその陳述書は「集団自決」にかかわる一方の当事者の主張に過ぎず、その主張の正否について学問的検証をへたものではなく、また、裁判においてもその正当性が認められたものではない。いずれにしても従来の通説をくつがえすに足る根拠となるものではない。これは文部省・文部科学省が、検定にあたって、係争中の裁判にかかわる事象について一方の側の主張のみをとりあげるべきでないとしてきたことや、通説を書くよう指示してきたこととも矛盾しており、自家撞着も甚だしい。
 また、文部科学省が今回の検定で、軍の命令・強制はなかったとするのが通説だと主張し、複数意見の併記を求めるのではなく、いきなり文部科学省の主張するところに基づいて書けと指示したことも、これまでにない異常なことといわなければならない。これは、その後最近にいたって文部科学省側が軍の関与は否定しないと弁明していることとも矛盾する。そればかりでなく、文部科学省側の言明によれば、今回の検定にあたって実際は渡嘉敷・座間味の事例だけを念頭においたという。そしてそこでの軍指揮官の住民に対する直接命令の有無に問題を矮小化し、直接命令はなかったという一隊長の陳述のみを根拠に、それを沖縄戦全体のなかで軍の強制・誘導がなかったという結論に結びつけている。このことも、検定意見の根拠の無さを如実に示している。
 さらに、沖縄県議会が二度にわたって検定撤回を求める意見書を採択し、県内41市町村すべての議会が同様の意見書を採択するなど、沖縄県民がこぞって今回の検定による教科書書き換えに対し怒りを燃やしている事実も、重要な問題を提起している。沖縄戦の体験と、それを継承している地域住民の切実な訴えが示している歴史的事実は、真摯にうけとめられるべきである。体験者でありその継承者である地域住民の証言と訴えが、検定という名の国家の力によって圧殺されることがあってはならない。
 このような矛盾にみちた今回の検定の撤回を求める沖縄県民をはじめとする全国の市民の声を、文部科学省はかたくなに拒否しつづけている。文部科学大臣がいう唯一の撤回拒否の理由は、検定審議会が学問的立場から決めたことだから政治が介入できないというものである。しかし、この言い分も矛盾にみちている。この間、実は文部科学省の専任職員である教科書調査官が、検定意見の原案にあたる「調査意見書」なるものを作成していたことが明るみに出た。だとすれば検定意見は実は文部科学省自身が作成していたことになるのであり、誤った検定意見を撤回する責任は文部科学省自身にあるのであって、検定審議会を隠れ蓑に使って責任を回避し検定意見の撤回を拒否することは許されない。
 ではなにゆえに、このような矛盾にみちた異例異常な検定を行うにいたったのか。それは、南京虐殺、「慰安婦」とならんで「集団自決」軍命令説の抹消を日本軍と戦争の美化のための三大目標にかかげる勢力が、2005年には大阪地裁へ提訴するなど周到かつ計画的な活動の上に立って、検定に対する政治的圧力をかけるにいたったことが原因と判断せざるを得ない。そのねらいは、軍隊は住民を守らないという沖縄戦の重要な教訓を抹殺し、戦争と軍隊への協力を国民に強制する体制をつくることにあると思われる。
 私たちは、このような検定が撤回されることなくそのまま認められるならば、次のような取り返しのつかない結果につながるだろうことを危惧するものである。
 第一に、私たちは現在の教科書検定制度が国家による教育内容の統制、ひいては国民の思想統制をもたらすものであるとして、これまでも批判しつづけてきた。これまでの運動によって多少なりとも運用の改善がはかられてきた面もあるが、今回のような検定事例が認められるならば、それが一挙に逆転し、恣意的政治的検定がいっそう横行するのを許すことになるのではないか。
 第二に、教科書検定による教科書書き換えを通じて、事実にもとづく歴史学習が妨げられ、国家と軍隊に奉仕する国民づくりのための教育がいっそう推進されるのではないか。それは戦争への反省に立脚した日本国憲法の理念をないがしろにし、憲法改悪に導こうとするものではないかと懸念される。教育基本法改定と関連法案の成立によって、そのことがいっそう危惧される状況となっている。
 したがってこの問題は、未来の教育と日本のありかたにかかわる重要な問題だと考える。よって私たちは、冒頭に述べたように、文部科学省ならびに教科用図書検定審議会が、検定意見の撤回とそれに伴う措置をただちにとることを強く求めるものである。
2007年  月  日
呼びかけ人
安仁屋政昭 荒井信一 猪飼隆明 石山久男 伊藤康子 宇佐見ミサ子 大日方純夫 小牧薫 木畑洋一 木村茂光 鈴木良 高嶋伸欣 田港朝昭 中塚明 中野聡 長野ひろ子 永原和子 西川正雄 浜林正夫 広川禎秀 服藤早苗 藤井讓治 峰岸純夫 宮地正人 山口剛史 山田邦明 米田佐代子
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 「沖縄戦の事実を歪める教科書検定の撤回を求める歴史研究者・教育者のアピール」
                 賛同のお願い
 上記アピールに多くの方々の賛同をいただき、賛同者のお名前、人数を含めて公表し、関係方面に送付したいと思います。賛同していただける方は、同封のハガキ、または、メール・FAXをお送りください。
         第1次賛同者集約9月15日、 第2次集約10月10日。
101-0051 東京都千代田区神田神保町2−2誠華ビル歴史学研究会気付
 歴史研究者・教育者アピールの会
FAX: 03-3261-4993  e-mail: メールアドレス
FAX・e-mailの場合は、下記の書式をお使いください。
「沖縄戦の事実を歪める教科書検定の撤回を求める歴史研究者・教育者のアピール」に賛同します。
   お名前:
   ふりがな:
   氏名公表の可否:  可 / 非
   所属・連絡先など(お差支えなければご記入ください):

  決議 2006年「教育基本法」を新学習指導要領で
      具体化することに反対します


 6月20日に国会で、2006年「教育基本法」を具体化する教育関連三法案(学校教育法・教員免許法・地方教育行政法)が強行採決されました。私たちは、教育関連三法が教育の国家統制を強め競争と格差を教育に持ち込むものとして、反対してきました。国会審議においても、これらの法案が、現在の教育問題を解決するものではなく、むしろ教育荒廃を助長するものであることが明らかにされました。今、教育に最も必要なのは、一人ひとりを丁寧に見ることが出来る少人数学級、子ども・地域の実情に応じた学校・教育の自主性の保障です。
 安倍内閣「教育再生プラン」の目玉である全国学力テストが4月24日に実施され、採点上の混乱が問題となりました。また、学力テストと学区の自由化を先行実施してきた東京・足立区の小学校では、学力テストの不正が明らかになりました。これは「教育再生プラン」の将来を暗示しています。私たちはこの三法を教育現場に押し付けないこととその改正を要求します。  現在、学習指導要領が改訂されようとしています。私たちはこの改訂が2006年「教育基本法」を具体化するものとなることに反対し、特に以下の4点を強く要望します。

1. 社会認識・歴史認識に関って特定の価値観を押し付けることなく、日本国憲法・子どもの
 権利条約を生かし、児童・生徒・教職員の思想・信条の自由を保障することを求めます。「国
 旗・国歌」「奉仕活動」の強制、徳育に関する教科の新設に反対します。
2. 競争を加熱させるのではなく、すべての児童・生徒に基本的な学力を保障する教育条件の
 充実を要望します。義務教育の差別化につながる「発展的な学習」の廃止、中学校の選択学
 習の縮小・廃止、競争主義教育と画一的指導を進める「全国一斉学力テスト」の中止を要望
 します。
3. 社会科学習は国際社会に生きる子どもたちに、他国を対等に見ることが出来る幅広い視野
 を育てる内容にすべきです。日本が起こした戦争を「自衛戦争」とし、日本軍の加害を軽視
 する歴史認識を育てるべきではありません。また、支配者中心の歴史ではなく、生産と労働
 を中心とした民衆の歴史を重視すべきです。
4. 学習指導要領の拘束性を廃止し、主権者として必要な力を育てる教育課程の自主編成権が
 保障されるべきです。
2007年8月4日
歴史教育者協議会第59回大会 会員総会
決議 沖縄戦での日本軍による「集団自決」強制の事実を
歪める高校日本史教科書検定の撤回と、記述の復活を求める


 今年の3月30日に公表された高校日本史の教科書検定で、沖縄戦のいわゆる「集団自決」(強制集団死)に関し、日本軍による強制があったとする趣旨の記述を削除したことが明らかになりました。これに対し、沖縄戦の事実を歪めるものであるとの抗議が各方面から文部科学省に対しておこっています。
 沖縄県議会でも、6月22日と7月11日の二度にわたり、検定意見の撤回を求める「教科書検定に関する意見書」を全会一致で採択しました。また、これと前後して沖縄県内41すべての市町村議会でも同様の意見書が採択されました。
 いわゆる「集団自決」(強制集団死)が日本軍の命令・強制と誘導によるものであるという事実は、多くの証言と歴史研究によって明らかにされ、今日まで通説として認められてきました。その結果、昨年までの教科書検定ではなんら検定意見が付されることなくその記述が認められてきました。今回、命令・強制と誘導という事実をかくし、「集団自決」(強制集団死)を住民の自発的なものであるかのように書き直させたことは、歴史研究を踏みにじり、沖縄県民が体験し継承してきた歴史の事実を抹殺するものです。
 それは戦争と軍隊を美化し、海外で戦争する「日本軍」の復活をめざす憲法改悪につなげようとする意図から発したものといわざるを得ません。
 私たちは、「集団自決」(強制集団死)が日本軍の命令・強制と誘導によっておこった事実を削除させた検定意見を撤回し、沖縄戦の真実が教科書において正しく記述されることを認めるよう求めます。
2007年8月4日
歴史教育者協議会第59回大会 会員総会

沖縄戦での日本軍による「集団自決」強制の事実を歪めた
高校日本史教科書検定に抗議する

 2007年3月30日に公表された高校日本史の教科書検定で、沖縄戦のいわゆる「集団自決」に当時の日本軍による強制があったとする趣旨の記述に検定意見がつき、修正がおこなわれたことに強い憤りを感じるとともに、そうした恣意的な教科書検定がおこなわれたことに抗議します。
  沖縄戦における「集団自決」が日本軍の強制や誘導のもとでおこっていたことは、多くの証言とこれまでの歴史研究で明らかにされ、これが通説となっていました。そうした研究成果をもとに、従来の教科書では、日本軍による誘導と強制のもとで起こった「集団自決」という記述がなされ、教科書検定でも認めてきていました。しかし、今回の検定において、日本軍による誘導と強制の事実を隠して、あたかも住民が自発的に自決したかのように書き直されたことは、歴史研究を踏みにじるとともに後世に禍根を残すことが明白です。
  このような検定がおこなわれた根拠の重要な一つは、2005年8月に自決命令を出したとされる元日本軍守備隊長らが、命令をしておらず、名誉を毀損されたという訴訟を起こしたことにあるとされています。その訴訟の単なる一方の側の主張をもとに通説をくつがえす検定をおこなうのは、余りにも恣意的な検定と言わざるを得ません。そもそも、その訴訟自体、あのアジア太平洋戦争を「侵略戦争ではなかった」と主張するする人たちが、沖縄戦の「集団自決」においても「軍命はなかった」として2005年から教科書からの削除を求めてきた運動の一環にすぎません。このような政治的な運動の圧力によって教科書記述が歪められること自体、未来を担う子どもたちに真実を隠す教育をおし進めることにつながります。
  歴史研究の成果と戦争の事実を子どもたちに伝えることが、「再び戦争を起こさない」「平和を愛する日本国民」の願いです。私たちは、その国民の願いを無視し、過去と向き合わない偏狭で姑息な歴史認識に基づく今回の教科書検定に抗議するものです。また、文部科学省による歪んだ教科書検定を改めるとともに、今回の検定意見を撤回することを強く求めます。
2007年4月12日
                               歴史教育者協議会常任委員会

4月29日を「昭和の日」にすることに反対する(声明)

 2005年に成立した祝日法改正により、2007年の4月29日は「昭和の日」という「国民の祝日」となり、従前の「みどりの日」は5月4日に移動することとなりました。今年から施行する「昭和の日」を国民の祝日にすることに反対し、「昭和の日」による、国民の意識統合と歴史の偽造に抗議します。
  私たちが反対し抗議するのは、まず制定の意図が納得いかないからであり、「昭和の日」が昭和の評価をめぐり国民の間に混乱をもたらすことを危惧するからです。1989(昭和64)年1月7日の昭和天皇裕仁氏の死去により、4月29日を「みどりの日」とすることになりました。しかし「昭和の日」の実現をめざす国会議員や一部の人たちは、過去2回、廃案(2000年、2002年)となった法案を2004年に提出し、2005年の第162国会で審議不十分なまま成立させたのです。「みどりの日」を「昭和の日」にするための審議は、参院では実質4時間たらずでした。改正案では、「激動の日々を経て復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす」ということが明記されました。しかし、その昭和における戦争と敗戦、戦後の復興と民主主義・平和の理解と評価は、戦後60年をすぎた現在でも、今日的な問題であることはいうまでもありません。国の将来はこの問題を抜きにして考えることができません。
 さらに、私たち社会科教育や歴史教育にたずさわる者は、以下の理由から反対します。
 第一は、祝日法第一条には、国民の祝日は「国民こぞって祝い、感謝し、又は記念する日」とされていますが、「昭和の日」は、「国民こぞって」祝日にする日にはなりえません。「昭和の日」が1925年から1989年までを、一括りにして「昭和」と捉えて、戦前と戦後の区別を曖昧にしているからです。この歴史認識は、明らかに誤りです。
 第二は、その結果、評価が分かれる昭和天皇をめぐるさまざまな問題に対して、真実を追究することを妨げることになり、一方的な見解が押しつけられることが危惧されるからです。すでに扶桑社版『新しい歴史教科書』の末尾にある「人物コラム 昭和天皇」などは、歴史の一面化の一例です。
 1990年代以降、ますます侵略戦争の研究、戦争責任の研究は、内外ですすめられ多くの成果を生み出してきました。また侵略戦争への反省にもとづく、国際社会への復帰は紆余曲折を経ながらも、諸国民との友好を一層深めてきていることには確信をもちたいものです。
 私たち歴史教育者協議会は、「建国記念の日」反対運動を引き継ぎながら、それと共に、国民の一部にある偏狭な「国家主義」的な動きを強めることになる「昭和の日」に反対するものです。
 2007年4月1日                    歴史教育者協議会全国委員会

違憲の教育基本法を具体化する教育関連四法案に反対する(声明)

 3月10日、中央教育審議会は安倍内閣の「教育再生」プラン・教育再生会議報告を具体化した、学校教育法、教員免許法、教育公務員特例法、地方教育行政法など「改正」について答申し、30日に今通常国会に提出しました。
 学校教育法改正案は、@幼稚園、義務教育(小中学校)、高校の教育の目的、目標の改定、A学校評価規定の新設、B副校長、主幹、指導教諭の新設を求めています。義務教育の目標には「規範意識」「公共の精神」「家族や家庭の役割(の理解)」「我が国と郷土を愛する態度」を盛り込みました。これは、「改正」教育基本法第2条の「教育の目標」にある愛国心・道徳心・公共心をはじめとする20にのぼる道徳規範を、子どもたちに強制するものです。さらに、上からの学校評価が教員の自立性を奪い、「いじめ半減」の数値目標がいじめ隠しをもたらしたように、教育現場を荒廃させるものです。副校長など新たな管理職の設置は、学校を上意下達の社会に仕立て上げるものといわざるをえません。
 教員免許法改正案は、10年毎に30時間の講習を義務付ける教員免許更新制の導入を求めています。免許更新制は教員の身分を不安定にし、講習によって国家に従順な教師をつくることにつながります。また、教育公務員特例法を改定し、指導力不足教員の認定・研修を盛り込んでいますが、これは、すでに全国で実施され「認定が一方的」であるという問題点が指摘されています。不適格教員は教員個人の問題だけではなく、子どもや保護者の変容、長時間過密労働、教育への管理の統制強化や劣悪な教育・労働条件の結果でもあります。教職の魅力の減少の表れとして、大学の教育学部入学希望者は減少しています。これも軽視することはできません。
 地方教育行政法改正案では、「いじめ自殺」「高校未履修」で問題になった教育委員会への勧告・是正指示を審査する第三者機関を設置するとしています。国は、教育委員会への是正要求、私立学校に対する助言・援助、小規模市町村教育委員会の統合という形で、教育への国家統制を強めています。また、文化・スポーツについては教育委員会の管轄をはずし、首長の管轄も認めています。民主主義の原則は「地方自治」「住民自治」です。改正案は、地方自治の破壊と連動し、住民自治をないがしろにするものです。
 問題なのは、この四法案改正についての答申が「突貫工事」といわれるように約1ヶ月半の審議で出されたことです。また、法案についての国民的議論もなされず、答申の内容も煮詰まっていないということです。さらに問題なのは、現在の学力問題やいじめ・不登校などを解決するどころか、教育荒廃を助長するということです。 安倍内閣の「教育再生プラン」のモデルはイギリスでは失敗した「教育改革」です。イギリスは学校に競争主義と市場原理を持ち込んだ結果「教育の階層化」が固定し、教育が荒廃し、国民の教育水準が著しく下がり、今になって見直しの動きが出ています。
 教育問題は、子どもの人間的成長を視点に据え、子どもの現実を踏まえて議論すべきです。今緊急にやるべきことは、一人ひとりの子どもを丁寧にみられる少人数学級、教材研究の時間がとれるような教員数の確保、子どもの実情に応じて教えられる学校・教員の自主性を保障することです。私たちは、日本国憲法と子どもの権利条約に基づく教育を国民全体で議論し、「子どもの最善の利益」を追求すべきであると考えています。
 こうした点から、教育の国家統制と競争・格差教育を学校・教育に持ち込む教育関連四法案に反対します。
2007年4月1日                       歴史教育者協議会全国委員会

改憲手続き法案(国民投票法案など)の廃案を求める(声明)

 私たち歴史教育者協議会は、戦前の歴史教育が天皇に奉仕し戦争を支えるためのものであったことを反省し、1949年の創立以来、国民主権・基本的人権・平和主義の実現をになう人間の形成を目ざす教育・社会科教育の実践を積み重ねてきました。この憲法のもとで、戦争をしない国としての日本の60年の歩みは、国際社会において名誉あることと言わなければなりません。
 しかし、安倍首相が「改憲」を政権としての政治目標の主要な柱の一つと位置づけ、その第一歩として「改憲手続き法」案を今国会の会期中に成立させようとしています。9条を「改正」して平和主義を「放棄」することは、国民多数の意見とは相容れないものです。私たちが行なった近現代史アンケートでも中高生の7割が反対しています。私たちは、今回の「改憲手続き法」案に対して、2つの理由からその廃案を求めるものです。
 第1は、この法案は国民の望まない「改憲」と直結していることです。
 第2は、この法案が示している「手続き」そのものが、「改憲」に有利な、不公正で非民主的なものであることです。
 したがって国民主権とあいいれません。 安倍首相や与党はこの「改憲手続き法」案が、あたかも憲法の規定(96条)を法律化するに過ぎない、国会の義務を果たすのだと言い、いかにも中立的なものとして宣伝を行っています。
 しかし、それは決して中立的ではなく、「改憲」を有利にすすめるための仕掛けが、たくさん設けられています。そもそも憲法を変える手続きを考えるとすれば、国民主権のもとで、国民的な討論が広く深く行えるようにしなければなりません。最大多数の国民の参加を現実のものとし、有権者の過半数で決めていくことが必要です。また改正点の投票方法も、国民の多様な判断をあらわすために、一括投票ではなく、それぞれの論点ごとの判断が求められるものであるべきです。
 その見地からみると@最低投票率の規定がありません(与党・民主党案)。A過半数の規定が、有権者総数の過半数ではなく、賛成または反対の意思を示したもののみを有効投票とし、その過半数でよいとしたので、@とあいまって国民のごく少数の意見で「改憲」が成立することになります。B討論の期間(発議から投票までの期間)が「60日以降、180日以内」(与党・民主党案)とは、あまりにも短く、国民的な討論にとって不十分です。C教員・公務員への規制(しかも罰則つき=与党案)は、教員・公務員の主権者としての正当な権利を侵害し、憲法尊重擁護義務にも反するものです。Dマスコミを利用したCMなど費用のかかるものにつき、投票直前の禁止規定だけでは、資金力のあるもの=「改憲」勢力に有利となります。また無料扱いについて政党及びその委託を受けたものだけに限ることは、国民参加への大きな規制となります。E投票方法も「関連する事項ごとに」まとめておこなう(与党・民主党案)としていてあいまいです。
 以上の点から、「改憲手続き法」案は「改憲」派に有利な不公平・非民主的なものであることが明らかです。
 さきに安倍首相は5月3日の成立を掲げ、その後反対が多く取り下げたものの、会期末までの成立に固執しています。衆議院の公聴会は3月22日の開催を強行しました。拙速な審議経過はまさに、この法案が「改憲」を前提としたものであることを示しています。そのこと自体、国民主権と矛盾しており、私たちは政府・与党に抗議するとともに、法案そのものの取り下げを求めるものです。
2007年4月1日                       歴史教育者協議会 全国委員会


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