日本政府と被告企業は元徴用工の名誉と尊厳を回復するために努力せよ(声明)

By | 2018年12月17日

 2018年10月30日韓国大法院は、元徴用工の損害賠償請求を認め、新日鉄住金に対して
1人あたり1億ウォン(約1千万円)の支払いを命じる判決を下した。植民地支配の下で日本
に強制連行された元徴用工への賠償を命じたこの判決に対し、日本政府は1965年の日韓
請求権協定ですでに解決済みであるとし、安倍首相も「国際法に照らして有り得ない」と
強く非難している。また多くの日本のマスコミも、日韓基本条約の根幹を揺るがす判決、
条約の一方的な解釈変更、などと主張し批判する社説を掲げている。こうした中でNHKの
11月世論調査では、今回の判決に69%が「納得できない」としている。
 戦後いち早く歴史教育の中に朝鮮史、日朝関係史を位置付けて研究・実践を積み重ね、
今日では日韓の歴史教育交流にも取り組んでいる私たち歴史教育者協議会は、現在のよう
な日本の状況を憂い、危惧を感じている。それはこの判決への認識が根本的には植民地支
配に対する歴史認識の問題に通じるからである。
 まず、原告の元徴用工の受けた被害の実態をきちんと見るべきである。いわゆる朝鮮人
強制連行では、多くの場合何かの技術習得ができるなどと偽って連行し、実際は炭鉱や軍
需工場などで劣悪な労働環境の下、危険な作業をさせ、十分な食事も与えず、また逃亡防
止のために賃金も手渡さず、日常的に暴力によって管理・強制するという重大な人権侵害
が行われていた。こうした非人道的な強制労働の実態に誠実に向き合い、亡くなったり、
肉体的、精神的な被害にあったりした元徴用工の名誉と尊厳をいかに回復するかという立
場にたつべきである。
 1965年に日韓基本条約及び日韓請求権協定を含め4本の協定が締結されたが、条文の中
で日本の植民地支配に対する認識については一切触れられず、日本政府は韓国に謝罪もし
ていない。韓国側が日本の植民地支配は不法で不当なものであるとしたのに対し、日本側
は合法であり正当だと主張して譲らず、結局植民地支配に対する歴史認識は曖昧にされた
まま条約は締結された。
 大法院判決は、元徴用工の損害賠償請求は、朝鮮半島に対する不法な植民地支配などに
直結する日本企業の反人道的不法行為を前提として請求する慰謝料であり、日韓請求権協
定の適用対象には含まれないものであると述べている。植民地支配の認識に触れなかった
協定の「経済協力」資金に、植民地支配の被害者に対する慰謝料が含まれないと解する判
決は理解できるものである。
 個人の請求権について、政府は日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決」されたとし
ても「いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではない」
(1991年8月27日柳井俊二外務省条約局長)と参議院予算委員会で答弁している。この点に
ついては韓国大法院の判決も同じである。この立場にたって日本政府と被告企業は元徴用
工が受けた重大な人権侵害の実態に誠実に向き合い、被害者の名誉と尊厳を回復するため
に努力すべきである。

                  2018年12月16日  歴史教育者協議会常任委員会

 

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