編集長日記(9)「いまこそ積読解消のチャンスです?!」

By | 2020年3月15日

〇今年も3ヶ月が過ぎました

 2020年もはや3ヶ月が過ぎ、『歴史地理教育』も既に3冊刊行しました。1月号は「オリンピックの光と影」、2月号は「からみあう学校と受験産業」、3月号は「災害列島日本の現実に立ち向かう」です。

 1月号のオリンピックの特集は、もちろん2020東京オリンピックを意識しています。3月号は例年通り、震災9年目の災害・原発事故にこだわりました。そして、間の2月号は、昨今とみに学校に関わっている受験産業の問題を取り上げました。「からみあう」という表現に、学校との関係がただならぬものがあるとの意味を込めました。

 コロナ騒ぎで騒がしい状況の今こそ、落ち着いて、社会の問題に目を向けるために、『歴史地理教育』を手に取って頂けると、有り難い限りです。

〇常任委員会でも合評しています

 最近、全国各地の支部ニュースを拝見していると、『歴史地理教育』の輪読会、合評会が盛んに行われています。編集している身としては、有り難い限りです。本部の常任委員会でも、編集以外の担当の副委員長を中心に、講評をしてもらい、毎号の内容を反省して、次回以降の編集の糧とさせて頂いています。2月下旬の常任委員会でも、1月号、2月号の講評がありました。

1月号「オリンピックの光と影」は、オリンピックの歴史とその実際を特集しました。歴教協らしい切り口で、復興五輪という政府の謳い文句と実際の乖離、経済効果への疑義、アメリカのテレビ局の放映権料の問題など、オリンピックの批判すべき側面に注目しつつ、スポーツの祭典開催を喜ぶ世論にも配慮して、オリンピックの光と影の両面を特集しようと企画しました。

しかし、実際はオリンピックの影の部分に光を当てた特集になったとの講評がありました。現在は新型コロナの流行の拡大で、開催が危ぶまれる状況ですが、中止や延期といったことが議論されることで、現代の世界でオリンピックがもつ大きな社会的影響がよく見えると思われます。それを考えるためのヒントに、1月号の特集を参照頂ければ幸いです。

 特集以外で特に注目されたのが、1月号から始まった三重県歴教協の草分京子さんの小学校の実践報告の連載です。実践報告を読みながら涙が止まらなかったのは、初めてという講評者の感想が印象的でした。格差や貧困が常態化した今の世の中で、両親を失いながら懸命に生きる小学生の日常に寄り添いながら、生活のありのままを子どもに綴らせながら、子ども自身に生活の困難さと向き合う中で少しずつ成長していく様子が感動的な実践記録です。既に3月号まで刊行していますが、6月号までの長期の連載です。ご期待ください。

 2月号「からみあう学校と受験産業」は、大学入試の共通テストの最近のゴタゴタで浮き彫りになった学校と受験産業の関係に切り込んだ、『歴史地理教育』には珍しい特集です。というのは、歴教協では私たちのめざす歴史教育、社会科教育は受験教育とは別個のものという考えが強く、両者の学力観も基本的な認識を異にするという前提がありました。

 しかし、小中高どの校種でも現在では受験産業との関わりが圧倒的で、学力テストや模擬テストなどの回数は普段の授業時数を圧迫する勢いです。それでもそうした外部テストのデータは、進路指導のためには欠かせないものとなっています。塾や予備校の存在は、第二の学校といっておかしくないでしょう。こうした状況を踏まえて、今回、受験産業を特集することとなりました。

 その受験産業の中でも最も大きな企業であるベネッセについて、各所で論じられていることから、今回の特集の企画では正面から取り上げることをしませんでした。そのためか、常任委員会での講評では、今回の特集は学校と受験産業の実際を特集したもので、その問題点が見えてこないとの意見がありました。もちろん問題があるからこそ特集しているわけで、それを直視しないつもりはありません。しかし、見方を変えればただ問題だといって関係を最小限に抑えればいいというレベルでもないほどに、既に深い関係が出来てしまっているということです。そうしたことを意識して、お読み頂くと、様々な発見がある特集となっているかと思います。

 今回は大夫長くなってしまいましたので、3月号については、3月増刊号と合わせて、次回の編集長日記でご紹介したいと思います。

(若杉 温)