投稿者「温若杉」のアーカイブ

2019年11月増刊号「第71回歴教協全国大会・埼玉大会報告号」の読みどころ

11月増刊号全国大会の読みどころ

 第71回歴教協全国大会埼玉大会報告号が出来ました。草加市文化会館の全体会に始まり、獨協大学での分科会・「地域に学ぶ集い」、そして閉会集会、さらに埼玉中心に関東各地でのフィールドワークまで、大会全日程の内容を記録した貴重な一冊です。本年の歴教協の全国大会では、歴史教育、社会科教育などをめぐって、どのような議論が交わされたのか、その全容をお伝えします。

 

〇熱気あふれる全体会

 全体会は、最初に山田朗歴教協委員長による歴史修正主義の横行に警鐘を鳴らす基調提案に始まりました。そして、記念講演は、近年学校での組み体操などの危険性を訴えて、教育のリスク管理の問題を訴えて注目されている教育学者の内田良さんの「学校をカエル!-『教育』の病から脱け出すために」。さらに埼玉の中学校の井村花子さんの学年全体で取り組んだ平和・人権学習の地域実践報告、井村さんの中学の卒業生も交えてのシンポジュームでは、参加者全員によるグループワークから様々な質問・意見が出て、大会テーマの「ともに生きる、ともに歩む―対話からひらく未来」にふさわしい新基軸の内容となりました。11月増刊号の巻頭では、その熱気をお伝えします。

 

〇24を数える分科会

 分科会は24あり、それぞれの教室会場に分かれて、様々なテーマごとに、170を超える全国各地からレポートが報告されました。その報告の内容と議論を、全部まとめて掲載しました。2日間にわたる熱のこもった分科会での発表の様子を伝えます。特に注目される授業実践や地域報告などは、逐次『歴史地理教育』の通常号に掲載します。中には、既に大会に先駆けて掲載されたものも多くあります。また、11月増刊号にも小中高で各1本ずつ掲載しています。是非、ご一読ください。

 

〇地域に学ぶ集い・閉会集会、そしてフュールドワーク

 2日目の夜の「地域に学ぶ集い」は、埼玉地域に関わるものを中心に、学識豊かな報告者による歴史や社会などの諸問題についての報告、糸車などの教材紹介、そして本部企画の日中・日韓との交流事業など、多彩な内容の学習会です。これについては参加者の感想などの報告をまとめて掲載しました。通読すると、歴教協の地域での豊かな活動がよくわかります。

 閉会集会では、冒頭でシリアでの長期の拘束からようやく生還されたジャーナリストの安田純平さんが埼玉県出身ということもあって、ビデオメッセージで、シリアでのご自身の拘束をめぐっての、日本政府の唱える自己責任論の欺瞞について語ってくれました。その後、分科会での議論を踏まえて、教科書問題や新指導要領の問題性など現在の教育を取り巻く様々な問題をめぐって、ベテランから若者まで、幅広い参加者から発言がありました。そうした集会の総括も掲載しました。

 最後に、大会後のフィールドワークについても、コースごとに参加者の感想を、すべての訪問先について、具体的な説明と写真などと共に掲載しました。分科会の多彩さと共に、フィールドワークこそ全国大会の醍醐味と言われて、毎年参加する会員も多いと聞きます。地域に根ざした教育をめざす歴教協にふさわしい企画です。

 こうした埼玉大会の多彩な内容をまとめて詰め込んだ充実の1冊です。是非、ご購読をお勧めします。

編集長日記(5)「『鎖国』か『海禁』か?」

編集長日記(5)「『鎖国』か『海禁』か?」

 11月号は、「明の海禁政策と日本の『鎖国』」と題して、日本の近世の対外政策を東アジアの視点を踏まえて考える特集を組みました。「鎖国」の見直しについては、1997年の10月号以来、約20年ぶりの特集です。その表題は「新しい『鎖国』の見方・学び方」で、いわゆる「四つの口」の長崎・薩摩(琉球)・対馬・松前の4つの窓で、日本は外国とつながっていたという「鎖国」観の見直しが提起されています。今回も4つの窓ごとの論稿を並べましたが、「鎖国」概念を相対化するとして、注目される明の海禁との比較を打ち出すことで、新たな問題提起となっています。

 まず、お勧めは巻頭論文の木村直樹さんの「幕府の『鎖国』政策とその実態」です。とにかく“めちゃくしゃ”おもしろい論稿です。8pのものですが、大変わかりやすいので、“サクサク”読めます。何がおもしろいかというと、具体的な貿易品の流通の様子で、長崎中心に4つの窓の相互関係も含めて、「鎖国」体制の実態を語っているところです。モノのやり取りの様子が目に浮かぶように思えて、これは是非、授業化したいと教師に思わせてくれる魅力的な論稿です。

 今回の特集の目玉である明の海禁政策と「鎖国」との比較については、山崎岳さんから、「海禁とはなにかー中国史の立場から」という論稿を寄せられました。中国史の史料から、海禁という言葉を取り出し、その意味合いを厳格に検討している論文です。高度な内容ではありますが、“頑張って”読むと、安易に海禁と「鎖国」を同一視してはいけないことを強く印象づけられます。

 また、日本列島の南北の出入り口の琉球、蝦夷地については、麻生伸一さんの「近世日本の対外政策と琉球」と東俊佑さんの「アイヌの交易世界と松前藩」がそれぞれ、その実態を具体的に明らかにされています。これらの論稿をまとめて読んで頂けると、東アジアの中の近世日本の対外関係について、豊かな歴史像を得ることできると思います。

 実践では、対馬や倭寇を取り上げて、中世から近世に掛けての東アジアの中での日本の対外関係について授業した関誠さんの「対馬から見る中世東アジアの陸と海」という中学での実践を掲載しました。関誠さんは、東京都の公立中学校で教えられています。2016年の7月増刊号の『歴史の授業は子どもが主役』と題した小中高校の実践集で「荘園の授業」を寄稿して頂きました。その時の実践でも、今回のものでも、ともに生徒との対話を中心に授業を展開されている点が印象的で、追試をしてみたくなる優れた授業実践です。他の研究論文と合わせて、ご一読をお勧めします。

他にお勧めは、冒頭の1997年10月号「新しい『鎖国』の見方・学び方」2015年2月号の「悪党と倭寇」といった10月号と内容の関連するバックナバーと併読されることです。この20年での研究・実践の進展、中世と近世の日本の国際関係の変容がよく理解できると思います。(若杉温)

 

編集長日記(4)「日韓関係を『歴史地理教育』に学ぶ」

編集長日記(4)「日韓関係を『歴史地理教育』に学ぶ」

〇日韓歴史実践シンポに参加しました

先週は歴教協の日韓交流委員会主催の第18回日韓歴史教育実践シンポジウムに参加するため、韓国の蔚山・釜山に行ってきました。蔚山外国語高等学校で、日韓の教師による公開授業と授業報告がそれぞれ2つずつありました。その詳細は後日発行される報告書に譲りますが、日韓関係の難しい昨今、こうした交流が行われたことに、大きな意義を感じます。

 さて、この日韓関係に関する問題について、歴史的に考えるための論考を、最近の『歴史地理教育』から幾つか紹介したいと思います。 

 

〇中塚明インタビュー

 まず、最初のお勧めは、9月号の単発で掲載した中塚明さんのインタビュー「日韓の友好は、歴史の事実を見つめることから」です。中塚さんは日清戦争の研究で高名な歴史学者です。インタビューでは広く知られた、日清戦争のきっかけとなった日本軍の朝鮮王宮占拠に関する一次史料の発掘など、これまでのご研究について語って頂きました。特に近年は日清戦争に深く関係する東学農民戦争の遺跡を、現地韓国に訪ねる旅を主催されて、多くの参加者と共に韓国の人々との交流を続けてられています。この交流についてもインタビューでは詳しく語って頂きました。

 私もインタビューに同席させて頂きましたので、この機会にと思い、授業で生徒に聞かれて前々から気になっていた、「なぜ征韓論以来近代日本は、朝鮮・韓国を侵略し続けたのか?」という問題について、お聞きしました。この質問をしたのは、一般にいわれる植民地に求められる市場や資源という答えでは、明治初期の日本の資本主義未発達の状況を考えると、答えにならないと生徒の納得が得られなかったからです。米の供給地とか、山県有朋の国家の利益線の確保など、幾つかの想定をしたのですが、中塚さんの答えは別のところにありました。その詳細は『歴史地理教育』9月号に譲りますが、かなり意外なものでした。

 

〇「慰安婦」問題をめぐって

 最近、愛知トリエンナーレの表現の不自由展でも話題になった「従軍慰安婦」問題については、大阪市の公立中学で精力的に授業実践をされている平井美津子さんが、最新の『歴史地理教育』10月号「ジェンダー平等、女性の権利拡大」と題した短文で、言及されています。明快な論旨で、この問題の本質を指摘されています。また、来月の11月号では、「性暴力を授業する」との題で、連載「高校生と考えた憲法・平和の授業」の⑧で、長年高校の教員をされ、現在は大学で教職課程の大学生を教えている北海道の山本政俊さんが「平和の少女像」を教材に実践された授業を紹介されています。高校生の関心に寄り添って難しい戦争加害の問題を取り上げた秀逸の授業です。

 

〇三・一運動をめぐって

 そして、時宜にかなったテーマで話題となった、今年3月号の特集「三・一独立運動、五・四運動一〇〇年と日本」の巻頭論文の「三・一運動一〇〇年から何を学ぶか」(加藤圭木さん)をはじめ、韓国教師の授業報告「韓国の子どもたちは三・一運動をどう学んだか」(朴範羲さん・翻訳は永島梓さん)、そして、同じ号の「中学校の授業 歴史 中学生と学んだ三・一運動」(小林優香さん)も、それぞれ学ぶことの多い論考と授業実践の紹介です。加藤圭木さんは、来年初春の歴教協の中間研究集会での講演が予定されています。また小林優香さんは、冒頭で触れた蔚山でのシンポで韓国の高校生を相手に、同じ三・一独立運動について授業されました。それぞれ、ご一読を皆さんにお勧めします。

                                   (若杉 温)

 

2019年11月号「明の海禁政策と日本の『鎖国』」の読みどころ

 江戸時代の対外政策は、長く「鎖国」といわれ、キリスト教禁止、幕府の貿易統制を柱に、日本人の海外渡航と帰国、外国船の来航を禁止しました。しかし、現在では、「四つの口」から、海外と開かれた関係があったという理解が広まっています。明も「海禁」政策で、海外渡航や漁業まで規制していました。

 特集では、研究の動向を踏まえ、東アジアを視野に入れ、明の政策も含め、授業づくりのヒントを探ってみました。(米山・伊豆)

編集長日記(3)バックナンバーは宝の山です!!

編集長日記(3)バックナンバーは宝の山です!!

◎900号を迎えました!!

 本年2019年10月号で、『歴史地理教育』は通巻900号を迎えました。これまでの刊行にご協力頂いた皆さまと長く愛読頂いた読者の皆さまに、深く感謝致します。900号を記念して、前編集長で長年編集委員として本誌の編集に関わってきた村松邦崇さんが、10月号に「『歴史地理教育』のこれからの発展のために-創刊900号に寄せて」と題して、一文を寄せています。長年編集の企画や実務に関わってきた方の文章だけに、示唆に富む内容で、多くの方々にお目通し頂きたいと思います。

その一文の中で、『歴史地理教育』には歴史研究や授業実践などの論稿が宝のように詰まっているとして、目録を使って多くの論稿を参照してほしいと述べています。特に751号以降、目録は電子データ化され利便性が高まるはずです。多くの方々にご活用をお勧めします。

 

◎バックナンバーの活用を!!

 さて、毎月の刊行で、増刊号もあって、読み切れないとのご意見も時々頂きます。より魅力ある企画を考えねばと自戒するところです。しかしながら、900号を迎えるほどの本誌の蓄積を考えると、いわゆる「積読」もありではないかと考えます。

というのは、普段全部を読み切れなくとも、ご自分の関心の高まりを受けて、バックナンバーを手に取って頂ければ、その都度精一杯の努力を傾けて編集していますので、何年経っても、その時々でさまざまなヒントを読み取って頂けれるものと考えています。

 

◎2016年の3月増刊『歴史の授業は子どもが主役』はお勧めです!!

 例えば、2016年の3月増刊号は、『歴史の授業は子どもが主役』と題して、小中高にわたる歴史の授業を集めた実践集です。この中で巻頭の論文「『考える日本史授業』とアクティブラーニング」で、加藤公明さんが長年取り組んできた高校での討論授業について、文科省が現在強力に勧めているアクティブラーニングとの、似て非なることが明快に述べています。

当時まだアクティブラーニングが話題になり始めた頃で、本屋の教育書のコーナーに行くと、アクティブラーニングを冠した本が山積みになっていました。高校では2022年からの「歴史総合」の開始もあって、アクティブラーニングへの関心は未だ大きいものがあります。ただ、安易な共感は禁物ということが、加藤さんの論稿からはよくわかります。

 

◎小中の授業から高校の授業のヒントを学ぶ!!

そして、この『歴史の授業は子どもが主役』という増刊号を通読して頂けると、先述の「歴史総合」の授業開発に大きく資するヒントを汲み取って頂けるものと確信します。といいますのは、小中学校では子どもの関心に基づく、子どもの主体的な学習活動を重視した授業が以前から模索されてきました。そうした点から小中の歴史の授業実践に、これから「歴史総合」に取り組む高校の教員が、この増刊号をもとに、多くのことを学び取ることができるのではないかと考えます。(若杉 温)

 

 

編集長日記(2)若い教員のみずみずしい授業に感動!!

編集長日記(2) 若い教員のみずみずしい授業に感動!!

 『歴史地理教育』の新しい号が出ると、まず、一通り通読します。私の場合、生の原稿の段階で、何度か読んでいるものが多いのでが、刊行されて雑誌の形で読むと、原稿の段階とは大きく違った印象で、新鮮な気持ちにさせられることがままあります。

 9月号では、中学校の授業の熊井戸綾香さんの「地方自治を考える」を読んで、そうした印象を強く持ちました。この実践は、副題に「生徒のつぶやきをまちづくり提案に変える」とあるように、自分たちの地域にあまり自信を持てない中学生たちのつぶやきをきっかけに、授業づくりを始めます。アメリカのトランプ大統領のツイッターのつぶやきで、世界が揺ぐ現代です。生徒のつぶやきをすくい取って授業に結び付ける教員の姿勢に、授業の新しい可能性を感じます。実践者の熊井戸さんはまだ教職経験数年の若い方ですが、一読すると、若い教員のみずみずしい感性に驚かされます。

 授業は、まず、自分たちの地域について、アピールできるところ、変わってほしいところを問いかけ、班ごとに話し合って発表するところから始まります。普段の生徒たちの地域への低い評価のつぶやきを踏まえての問いかけです。そして、班ごとの意見をもとに、自分たちの地域の活性化について、みんなで話し合い、様々な意見を出し合います。その後、教材に市役所で発行される広報を使い、議会だよりから一般質問に注目して、どんなことが議会で話し合われているかを知り、そこにどんな特徴があるか、読み取って生徒が意見を述べていきます。2時間目は、同じ市の広報から市の予算案の実際を生徒と読み取ります。近隣の市に比べ、お金がないから市街地の施設がパットしないと思っていた生徒たちは、予算があまりかわりないことを知って驚きます。つぶやきから始まった地域への嘆きが、大きな関心に変わっていきます。生徒が地方自治を授業で擬似体験する実践です。

この実践で感心させられるのは、決して特別な資料を使っているわけではないのに、生徒たちの関心の高さが感じられ、前向きに学習に参加する様子がわかるところです。普段見過ごされている地域の広報に目を留め、生徒のつぶやきと結びつけるという教員の感性が光る実践だと思います。多くの方に一読をお勧めします。(若杉 温)