(声明) 広島市教育委員会が平和教育の副教材から『はだしのゲン』「第五福竜丸事件」を削除することに抗議し、その撤回を求めます

By | 2023年4月18日

(声明)

広島市教育委員会が平和教育の副教材から『はだしのゲン』「第五福竜丸事件」を削除することに抗議し、その撤回を求めます

 

広島市教育委員会は2023年2月8日「平和教育プログラムの改訂について(報告)」を出しました。その中で、副教材「ひろしま平和ノート」から漫画『はだしのゲン』「第五福竜丸事件」(「ビキニ被ばく事件」)についての記述を削除しました。

『はだしのゲン』は広島で被爆した作者中沢啓治さんが、自らの体験をもとに原爆の実相を伝えた作品で、広島のみならず原爆の恐ろしさを世界に伝えてきました。「第五福竜丸事件」は1954年3月1日に静岡県焼津市のマグロ漁船の乗組員が米国の水爆実験によって被ばくした事件です。これをきっかけに原水爆禁止運動が広がり、1955年第1回原水爆禁止世界大会が広島で開催されました。それから現在まで8月6日・9日に広島・長崎で大会が開かれています。また、調査によって多くのマグロ漁船が被ばくしたことが明らかになりましたが、現在まで正式に被ばくが認められていません。また、実験地の人びとは、今も被ばく後遺症に苦しめられ、故郷に帰還できていません。

広島市教育委員会は平和教育プログラム改訂会議において該当学年の教材としての適否を見直して、『はだしのゲン』は「浪曲の場面は、児童の実態に合わない。鯉を盗む描写は児童に誤解を与える恐れがあり…教材として扱うことが難しい」、「第五福竜丸事件」は「被爆の実相を確実に継承する学習内容となっていない」としています。しかし、『はだしのゲン』をどの年代でどのように扱うか、「第五福竜丸事件」をどう扱うかは、学校・教員が児童・生徒の実情から検討すべきであり、教育委員会が教材の適否をし、排除することがあってはなりません。『はだしのゲン』は描写内容が問題視され、学校図書館での閲覧を制限する動きもありました。「第五福竜丸事件」についても、核開発や核抑止論の立場から核の歴史や放射能の危険性を学ぶことが障害となっていると考えざるを得ません。

私たち歴史教育者協議会は、平和教育を重視してきた被爆地広島が、『はだしのゲン』「第五福竜丸事件」の教材を不適切として削除・排除することは極めて重大だと考えます。広島市は毎年8月6日に平和式典を開催し、原爆死没者の追悼とともに核兵器廃絶と世界平和の実現を願い「平和宣言」を世界に発信しています。今、ウクライナ戦争で核兵器使用の懸念も生まれ、国内では「核共有論」「非核三原則の見直し」の論議が始まっています。このように核使用が現実味を帯びてきた今、原爆・核兵器使用がどれほど悲惨であったかを学ぶことは重要であり、『はだしのゲン』「第五福竜丸事件」は貴重な教材です。5月開催の「広島サミット」を前にして、人類初の戦争で原爆攻撃を受けた広島・長崎のある日本の政府が核兵器禁止条約に署名すること、核の実相を学びその廃絶につながる教育を重視する姿勢を示すことが求められています。今回の「ひろしま平和ノート」の改変は、私たちが積みあげてきた平和教育を根底から覆し、核兵器保持に転換しようとする国の政策が背景にあると危惧せざるをえません。

歴史教育者協議会は1949年の創立以来、戦争の実相をしっかりと伝え、次世代に戦争体験を継承する努力を積み重ねてきました。平和教材から『はだしのゲン』「第五福竜丸事件」を削除することに抗議し、その撤回を求めます。 

                          2023年3月26日

                         歴史教育者協議会 臨時社員総会

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