高校教科書検定に抗議し、新検定基準の撤回を求める決議

By | 2016年8月18日
高校教科書検定に抗議し、新検定基準の撤回を求める決議
 
 安倍政権の下、文部科学省は2014年1月に新検定基準を追加告示し、
この新規準に基づき昨年の中学校社会科教科書に「続いて2017年度用
高等学校地理歴史・公民科教科書への初めての検定が行われた。新検
定基準の主な内容は、①「通説的な見解がない数字などの事項につい
て記述する場合には、通説的な見解がないこと」を明示すること、②
「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高
裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされてい
ること」というものだった。
 ある「日本史A」の教科書では、3・1独立運動の犠牲者数、関東大
震災時の朝鮮人虐殺者数、南京大虐殺の犠牲者数について、これまで
は歴史研究の成果に基づいて本文に具体的な数字を記述できたが、①の
検定基準に基づいて「おびただしい数」とされ、側註にはいくつかの数
字を列記し「人数は定まっていない」と記述する検定結果となった。こ
れは、たとえ数字の根拠が学問上薄弱であっても、ある主張が存在すれ
ば、「通説的な見解」はないとされ、数字を本文に記述させないという
ものである。このような恣意的な検定は、学問研究に対する不当な政治
的介入であり、そのねらいは過去の侵略と植民地支配の事実を極力薄め
ようとするものであると言わざるをえない。
 また、ある「現代社会」教科書の「積極的平和主義」に関する検定で
は、②の検定基準に基づいて、安倍政権の見解である「国際協調主義に
基づく考え方」「専守防衛や軍縮、国連PKOへの積極的参加」「国際
社会の平和と安全及び繁栄の確保に、積極的に寄与していこうとするも
の」などが書き加えさせられている。安保・自衛隊問題だけでなく、原
子力発電、日本軍「慰安婦」問題、領土問題などについても政府見解の
みを一方的に押しつける検定が行われた。これではまるで戦前の国定教
科書の再現であり、子どもの知る権利、学習権に対する重大な侵害であ
る。政治が教育を利用し、子どもたちを軍国少年・少女に仕立て上げ、
戦争に協力させた戦前の歴史を忘れてはならない。
 以上のように、今回の高校教科書の検定は、安倍政権による新検定基
準が適用され、従来にも増して憲法で保障された学問の自由、言論・表
現の自由を乱暴に侵害するものであった。そのねらいは、政府見解を一
方的に教科書に書かせることで、子どもたちの歴史認識と現代認識を画
一化し、安倍政権のめざす「戦争する国」を担う「人材」に仕立てよう
とするものであり、私たちは断じて容認することはできない。
 私たち歴史教育者協議会は、今回の高校地理歴史・公民教科書の検定
に強く抗議するとともに、新検定基準を直ちに撤回することを求めるも
のである。
 
2016年8月5日  
                                                         一般社団法人歴史教育者協議会会員集会